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第2話

しかし、彼の低い声で綴られる言葉を、皇の耳が取りこぼすことはない。 「いいとこの坊っちゃんで、生徒会長で……誰もお前を止められなかったろうなぁ?だって下手に皇様のご機嫌を損ねたら、自分の身があぶねえもんなぁ」 そうだ。 自分がどんな暴挙に出たところで、周りの人間は皆困った顔や疎ましそうな顔をするだけで、口に出して注意してくる者など、存在しなかった。 皇 昴流は逆らってはいけない人間。 それが、周知の事実だった。 ただ、あの水森だけは、ちょっとだけ自分を叱ってくれることがあった。 「……っれは」 「よしよし。泣くなよ、追い詰めて悪かった」 悪いのはお前だけじゃねえし、と撫でてくる手を払い除けたいのに、手は縛られていて解けない。 皇は仕方なく、信が好きに頭を撫で回してくる大きな掌を、甘んじて受け入れた。 「ちょっとコレ、こんまんまじゃ辛えから口貸して」 「んぐっ」 動き始めた信に歯向かうだけの気力は、もう皇には残されていなかった。 やっぱり飲むのは嫌だな、と溜め息のひとつでもつきたくなった時、口の中の信が一段と膨れ上がり──そして弾けた。 皇の顔の前で。 「なっ……」 「飲むのは嫌なんだろ?」 飄々と言ってのける信は、たった今一発放出したとはとても思えないほど涼しい顔をしている。 パタパタと髪から床に落ちていく液体の音を遠くで聞きつつ、生暖かさにつつまれた顔を気の抜けたように弛緩させながら、 「………だからって、顔射ならいいとは言ってねえだろ………」 呆然と呟いた。

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