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第3話

皇のファンである生徒たちは、顔を青ざめさせている。皇が生徒を連れて教室を抜け出すことはごくたまにあったが、こんなに長引くのは初めてだったからだ。 しかも、相手は体格のよすぎる転入生。 前田俊太郎も、もちろん友人となった信の身は案じていたが、なぜか会長のほうが気掛かりだった。 ───その時。 「お、ホームルームには間に合ったか?」 『!!!』 ガラッと引き戸が勢いよく開かれて、一人の男が現れた。クラス中の視線が一気にそこへ集中する。 「あっ。よお、前田」 「織田………」 皇の姿は、ない。 彼もこのクラスのメンバーなので、信と一緒に──もしくは皇が先に現れなければ、特に今のこの空気の中では……不謹慎な想像がはかどる。 ピンピンしている信に安堵はしたが、別の不安が襲い前田はこわごわ彼に尋ねた。 「お、お前、大丈夫だったか?」 「ああ?あ、会長さん?おう、なかなか良かったぜ」 『!!!!』 空気がビシリと固まった。 ───つまりコトは、確かに起こったのだ。 信があまりに平然としているので、もしかしたら何とか逃げ出してきたのかもしれないと希望的観測を立てていた観衆の心は、その言葉によって見事にバッキリとへし折られたのである。 「よ、よかったって…えっ…?」 こんなに平然としているということは、信は行為を楽しんできたと考えるのが自然だ。しかし言っちゃなんだが、信が受身をこなすところなど想像もつかない。 けれどもコトは起こった。 それは、それはつまり───。 「皇会長は………?」 震える声で、前田は信に訊いた。 訊きたくない気もしたが、いまやクラス全員の心が“前田、お前が聞け”と言っているのを察知したので、その責から逃れることはできなかった。 「ああ、今どうしてるか、って?」 わざとらしく言った信は。 「それは───言えねーな」 それだけ答えて、凄絶な笑みを浮かべた。 『────ウワアアアアア会長が喰われたぁぁあああ─────ッッ!!!』 高三という中途半端な時期に現れた転入生、織田信。 彼はその男前な容姿と並でない存在感に加えて、 初日から『会長食い』を成功させた男として、一躍有名人となったのであった。 《俺様生徒会長、攻略》

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