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第4話

◇◇◇ 「会長、書類」 副会長の鏑矢(かぶらや) (ごう)が、書類の束をずいっと差し出してきた。割り振られた仕事をもう終わらせたようだ。 「ああ、さんきゅ。後で判を押すからそこに置いといてくれ」 それに応えたのは、生徒会長の皇昴流。 信にぱくりといかれてからというもの、彼は人が変わったように生徒会の仕事と勉学に励み始めた。 否、変わったというよりは、水森に恋をする前の彼に戻ったといった方が正しい。 「…なぁ、昴流」 「ん?」 幼馴染みの二人は、幼稚部からずっとこの天下学園でともに過ごしてきた。 昴流はたいそう麗しいその外見だけで周りに威圧感を与えるのに加えて、天才肌であり、さらに強引でワンマンな性格だ。 集団の中では良くも悪くも浮いた存在になりがちである。 一方の鏑矢は、弓道部で培ったたくましい精神力を備えてはいるが、それと相反するような生来の抜け感があり、尖った昴流を大きな心で受け止めることができた。 信者の生徒からみれば、完全無欠な昴流と、その英雄と肩を並べても見劣りしない善き友人の鏑矢といった図である。 一般人には手の届かない尊い友情と崇めたてまつられているのはさておいて、昴流自身、唯一と言っても過言ではない友人の鏑矢をそれなりに大事には思っていた。 ──今の鏑矢が彼らしくもない微妙な表情を浮かべていて、それが並ではない事情によるものだということを即座に察することができるくらいには。 「どうした?変な顔して」 前歯に挟まった肉のかけらが気になって仕方がないような顔をしている鏑矢に訊ねると、昴流の方から話しかけてくるのを待っていたのか、少し表情をゆるめた。

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