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第4話 休憩

鼠色の退屈な風景。変わりばえしない景色だが時々、視界の隅に光の集合体が見える。顔を横に向けると、真っ黒な山の向こうにポツリとオレンジ色の光が寄せ集まっていた。 高速道路から遠くに見える街の灯りが好きだった。 父親に運転してもらっていた頃は「あの街はどんな人が住んでいるのだろう」と考えながら過ごすドライブは好きだった。 しかし今はそんな暇がない。運転中に空想に入り浸るなんて命に関わるからだ。 高速道路で長時間走っていると、心が体から抜け出しそうになる。幽体離脱をする直前はこんな感じなのだろうか。 「蓮、眠いだろ。俺が運転変わろうか」 アクビをした瞬間に、奏が声をかけてきた。僕は平気だよ、と言おうとしたがやめた。 さっきから集中力が切れてきたし、意識が飛びそうになっているからだ。僕が居眠りをして、2人揃ってあの世行きなんてバカげている。 「もうすぐ日付変わるよね。…どこかで休んでもいい?」 「ああ。そうしようか。どこかちょうどいい場所はないか?」 奏はそう言いながらカーナビを弄った。 「もうちょっと先に、大きめのサービスエリアがあるみたいだぞ。そこで休もう」 「うん。お腹も空いたし何か食べようかな」 ナビの音声に従い、道から逸れるとそこには広々とした駐車場があり、奥には窓ガラスとコンクリートが上手く融合した建物がポツリとあった。 深夜ということもあり、出歩いている人間は少なかったが、たくさんの車が駐車されている。 僕は適当な場所に車を停めると、店の方へ歩いた。 中に入ると、売店はもう閉まっており、フードコートや物産店は利用できなかった。コンビニの明かりだけは辺りを煌々と照らしていた。 「サービスエリアに行くと肉まんを無性に食べたくなるよな」 奏がそんなことを当たり前のように言った。 「そうかな。じゃあ僕も買おうかな」 そんな会話をしながら僕が飲み物を物色していると、隣にいた奏の姿が見えなくなった。 「あれ、奏?」 僕が辺りを見回すと、棚の陰から彼が頭をヒョコリと出した。 「おい、こっち来いよ」 奏に言われるがままついて行くと、彼はコンビニの奥の方にいた。 「この奥、シャワーがあるぞ。こんなの見たことないよな」 いつもより、少しだけ大きな声で言った。 "シャワー室 24時間利用可能"と書かれた看板を指差しながら。 ♢♢♢ 「いい湯だったね。…まさか時間制限があると思わなかったけど」 「なんか…近未来的だったな」 シャワーを終えた僕たちは車に向かっていた。隣接されたガソリンスタンドに絶えずトラックが入っていく。なんだか忙しない。今の僕らとは正反対だ。 少し濡れた髪をなびかせながら、奏は振り向いた。 彼の背後には、丸い月がポッカリと浮かんでいる。月の光は彼の髪色にそっくりだった。 「今日は車中泊になるのか?」 「…うん。この辺に泊まれる場所無さそうだし」 僕の言葉に彼は黙って頷いた。そして少し早足になって車へ歩み寄る。僕は遅れて彼の後に続いた。どうして急に急ぎだしたのだろう。 そんな疑問を頭に浮かべていると、歩くペースが遅れた。そんな僕に気付くことなく、奏はそのままの速度を保って歩いている。 その様子を見て、僕は思い出した。 奏は、これから狭い車内で一緒に眠る相手…つまり僕が、自分に好意を持っていることを知っているのだ。 彼はきっと安心して眠れない。ぎこちなくて気まずい車内なんて安眠とは程遠い。 どうしてそんな簡単なことに、中々気付けなかったのだろう。 僕があの日、逃げるようにした告白が彼の悩みのタネになったのは確実だ。奏はずっと悩み続けたに違いない。 自分の臆病さと鈍感さに嫌気がさす。 「蓮、どうしたんだ。そんな所で立ち止まって」 「いや、なんでもないよ」 車の前で、キーを持った僕を待つ奏の元へ歩き出した。

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