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※第10話 愛

「俺の目を見て。…そして聞いてほしい」 頭の奥の血管がどくどくと鼓動する。煩いくらい響く心臓を感じながら、僕は奏の言う通りにした。 奏の目は濡れていた。涙で濡れていた。 「どうして、泣いてるの」 渇ききった喉を無理やり震わせる。掠れた声は奏に届いたのだろうか。彼はゆっくりと瞼を閉じた。 「蓮、俺は嬉しくて泣いてる」 「う、嬉しい……?」 「実はさっき、お前と同じようなことを言おうとしてたんだよ。言おうか迷ったし、怖かった。どういう風に思われるか、想像するのも嫌だった。…でも、お前は勇気を振り絞って先に言ったな。それが嬉しかった」 僕は思わず彼を思い切り抱きしめた。奏の薄い体はスッポリと腕に覆われる。そして僕は震える唇を開いた。 「本当に?」 「本当だ。…蓮、俺からも言わせてくれ。 ……俺は、蓮に抱かれたい」 彼の口から溢れた言葉を、僕はしっかりと受け止めた。 ♢♢♢ 僕は抱擁を解き、奏と向かい合った。そして彼の首筋に唇を軽くつけた。奏の体がピクっと震える。 僕は彼の首や頰、そして耳にキスをした。 「触っても、いい?」 耳元で囁くと、奏は頷いた。僕が触れた箇所はどこも熱を持ったように温かい。 彼のシャツの中に手を入れた。そして腹を優しく撫でた。手のひらを動かすたびに、奏は息を短く吐いた。 指先でくすぐるようにして、へそから胸にかけてなぞった。そして手探りで、彼の胸にある突起に触れた。 「あッ…、っふ」 僕の指先の動きと連動するように、声を洩らす。彼の乳頭を摘んだり、優しく引っ掻いていると、奏に肩を掴まれた。 「どうしたの」 「っツ、もう限界…。下も触って、欲しい」 次の瞬間、彼をベッドに押し倒していた。金色の髪が目にかかっている。 下にいる奏が息を荒げながら微笑んだ。 「…もっと、蓮の好きにしても、いいんだぞ」 「いいの?僕、最後まで優しくできないかも、しれない…。抑えきれないかも」 「それでいいんだよ…。そうしてくれ」 寝転がった奏の下半身を見て、思わず目を見張った。彼は下着しか身につけていなかったのだ。さっきは緊張し過ぎて気付けなかったみたいだ。もしかして奏は最初から…そう思うとなんだかくすぐったい気分になる。 僕は犬を撫でる時みたいに、彼の膨らんだ下着に触れた。熱く、固かった。 自分以外の性器に触れたことなど一度もない僕は不安を胸に抱きながら撫でた。痛くないだろうか、と。 「…どう?」 返事がない。恐る恐る奏の顔を見ると、彼は口元に枕を押さえつけていた。 「何してるの」 「声、出そうになって…思わず」 「恥ずかしがらなくていいよ。僕は奏の声、聞きたい」 奏から枕を離す。僕は再び触った。彼は口をパクパクさせながら腰を浮かした。 気付くと、彼が履いているグレーの下着はぐっしょりと濡れている。黒くなっていた。 僕はそれをそっと脱がせる。 「…勃ってる」 「当たり前だろ」 僕の言葉に、奏は拗ねたような表情で顔を伏せた。そして彼の手は僕の下半身に触れた。 「蓮だって、そうだろ。すごく硬い」 正直に言って僕も限界に近かった。性器に血が集まっている。痛いくらいに。 「蓮、触りあおうか。一緒に気持ちよくなろう」 「うん……」 長い間、触れたくて堪らなかった彼の手が、僕の性器に。そう思うだけで胸が詰まった。色々なことが頭に浮かんでは消える。脳味噌を使う暇がないくらい僕らは夢中になっていた。 気を抜くと、手の動きが疎かになりそうだ。 「気持ちよくなりたい」という欲望と、「気持ちよくさせたい」という望みがせめぎ合う。 彼と僕の手は同じペースで動いていた。手を動かせば快楽が生まれるところは自慰と似ているが、全く違う。そんなことを考えていると、奏が口を開いた。 「ぁっ…、もう無理だ…っ」 乱れた呼吸で喘ぐように言った。いや、彼は喘いでいた。目に涙を浮かべて僕を見つめながら。 「はァッ、…れん、おれ……っ」 「ぼくも、もう……」 最後の方は言葉になっていなかった。二人の荒い息が水音と共に響いた。静かな部屋の隅で。 二人一緒に果てた。温かいものが手の平に放出される。 肩で息をしながら、ベッドに倒れこむ。ヒンヤリとしたシーツが火照った身体を包んだ。 満足感と幸福感が溢れると同時に、涙が溢れた。

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