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第10話

「あ、有馬さん‼」 予想もしていない事にびっくりし過ぎて、思わず声が上擦ってしまった。 「真尋・・・ごめんな・・・」 「有馬さんどうしたの⁉」 いつもとはあきらかに様子が違う彼に戸惑っていると、耳を疑うような、にわかには信じられない告白をされた。 「真姫との離婚が成立するまでは、真尋の気持ちに気付かないフリをしようと決めていたんだ。ごめんな、辛い思いさせて・・・。昨夜、真尋からキスをして貰って、涙が出るくらい嬉しかった」 「起きてたんですか‼」 「当たり前だ」 驚いてあたふたする僕とは対照的に、彼は落ち着いていた。 「・・・愛してる・・・真尋・・・」 大人の余裕と色気を纏わせ、耳元で甘く愛を囁かれて、もうそれだけで、腰が砕けそうになった。 ダメだ‼かろうじて僅かに残った理性が、最後の一線を越えさせまいと踏ん張る。そして、何故か先輩の顔が脳裏に浮かんできた。 「ごめんなさい。有馬さんの事、大好きだけど、お姉ちゃんを裏切ることは出来ない・・・」 「アイツは、俺を裏切って他の男の許に走った。既に夫婦関係は破綻している。真尋は、決して裏切らない・・・ずっと側にいてくれる。誰よりも、この俺を愛してくれる。そう信じていたんだが・・・」 有馬さんの声色が急に変わった。彼の腕にも力が入り、痕が残るくらい強く抱き締められ 「有馬さん、痛い‼」 恐る恐る顔を上げると、横顔も、雰囲気も、いつもの優しい彼とはまるで別人の様だった。 「16時半に学校を出て、それから、約一時間半後、学校や、いつも行くスーパーとは真逆の方向から帰って来ているね。今日はどこに寄り道して来たんだ⁉やましいことがないなら答えられるだろう」

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