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第16話
はじめは無視していた有馬さん。次第に苛立ち始め、僕の体を離すと、ガウンを羽織り、むすっとした表情で、玄関に向かって行った。彼がいなくなった隙に、サイドテーブルの上にあった携帯を握り締めた。
「ちょっと待て‼」
「煩いな。貴方に用はないの」
ドンと荒々しくドアが開いて、お姉ちゃんが入ってきた。普通、この状況なら怒り狂って、飛び掛かってくるのに・・・。なんで、そんな、悲しい眼差しで僕を見るの?
「ほら、突っ立ってないで、真尋を連れて行くんでしょ」
ドアの向こうにもう一人、誰かいるみたいだった。
「真尋、これ、羽織って、さっさとこの家から出て行きなさい」
お姉ちゃんが、手にしていたシャツを肩にそっと掛けてくれた。
「何で!?僕の事、嫌いなのに、どうして、こんなに優しくしてくれるの?」
「あなたの事は嫌いよ。でも、弟なのは確かな訳だしーー」
産まれて初めてお姉ちゃんが、弟って呼んでくれた。気恥ずかしのか、すぐ、顔を逸らしてしまったけど、すごく、嬉しい。
「ほら、早く‼」
お姉ちゃんに急かされ、姿を現した人はーー。
「・・・先輩・・・なんで・・・」
予想もしなかったから、すごく、驚いた。まさかこんな格好を見られるとは・・・。恥ずかしくて、下を向いた。寒くもないのに、シャツを持つ手がブルブルと震える。
「真尋は渡さない‼俺のだ‼」
有馬さんが、喚き散らしながら先輩の前に立ち塞がった。
「彼が震えているの分かりませんか⁉貴方が好きなら、あんなに怯える事はないはずーー」
先輩は、有馬さんに睨み付けられても、動じる素振りを一切見せなかった。彼の体を払い除けると、僕のところに来てくれた。目のやり場に困ったみたいで、ちょっとだけ、頬を赤らめていた。
「じろじろ見なくていいから」口を尖らせながら、タオルケットで体をグルグルと巻いてくれた。
「一人で歩けるから‼」
横に抱き上げられ慌てた。
「ダメだ」
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