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第17話

先輩は表情一つ変えず、そのまま、玄関から通路に出た。 「ちょっと、待って下さい‼」 着替えくらいさせてくれると思っていたのに。この恥ずかしい格好で、外に出るの⁉そんなの、イヤ。ぶんぶんと頭を振った。 「暴れるな、落とすから」 「だって・・・」 「あんな所に真尋を置いとけない。もっと早く迎えに行くべきだった。辛い思いをさせてすまなかった」 「どういう事ですか⁉それに、なんでお姉ちゃんと一緒だったんですか⁉」 先輩が、ちらっと視線を落とした。 「あとでちゃんと説明する」 それだけ言うとエトランスから、外に出た。日差しが強く、朝からムシムシしている。人目に晒される恥ずかしさから、体を小さく丸め、先輩の胸にしがみついた。 「真尋、真尋ちゃんこっち、こっち」 すぐ近くに停車していた車から、先輩のお母さんが手招きしていた。 初めて、先輩のおうちにお邪魔した時、同姓同名だと知り驚いていた。先輩が、真尋で、僕が、真尋ちゃん。”君”じゃなくて、何故か”ちゃん”。 「香苗さんまで・・・なんで⁉」 「真尋からね、あなたの事、耳にタコが出来るくらい聞かされてね」 「母さん、その話しはいいから」 先輩の顔、また、赤くなっていた。むすっとしながらも、僕を後部座席のシートに乗せてくれた。 「今日一日、家でゆっくりすればいいわ。気を遣わなくてもいいからね」 「すみませんこんな格好で・・・お世話になります」 タオルケットの端をぎゅっと握り締めた。まだ、手がブルブルと震えていた。 先輩も隣に乗り込み、車がゆっくりと走り出した。頬杖をついて窓の景色ばかり見て、僕の方は一切見てはくれなかった。高校の近くで停車し、先輩が下りていった。声を掛ける間もなかった。 「真尋、遅い‼あれ、一年生は?」 「風邪で休み」 「だからか、寂しそうなのは」 「五月蝿いな」 「顔に書いてあるぞ、寂しいって」 校門の前で待っていた四人に笑顔で合流し、いつもの様にじゃれながら何事もなかったように登校していった。 「真尋ちゃん、どう、うちの息子!?」 「えっ?」 急に聞かれて吃驚した。 「あぁ、見えて、恋愛には奥手でね。好きな人いるのは分かってはいたんだけど、誰かまでは、分からなかったけど・・・」 香苗さんがミラー越しにニヤニヤと笑っていた。 「まぁね、息子が幸せになれば、相手は誰でもいいのよ」 ハンドルを握り、再び、車が走り出した。 鈍感な僕でも、思わせぶりな香苗さんの態度に、はっと気が付いた。先輩が好きな相手が誰か・・・。 「大丈夫!?顔真っ赤よ」 「あ、は、はい、大丈夫です・・・」 平静を装うだけで精一杯だった。心臓が飛び出るんじゃないかってくらい、ドキドキして、全身がカァーーと、一気に火照り出した。 「詳細は真尋に聞いてね。結論からいうと、真尋ちゃん、今日から、うちの子だからね」 「へ⁉」 はじめ、冗談だと思ったけど・・・。

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