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第29話

「どうなっても知らないぞ」 「一回も行った事ないから・・・その・・・お祭りや、夜店に行ってみたい」 「まぁ、お前がそこまで言うなら、仕方ないか」 先輩溜め息吐いていたけど、嬉しそうだった。 「あれ、先輩の分は?」 「俺⁉あまりお腹空いていないから、半分こしようかなって。好きなだけ先食べていいよ」 増井さんにかなり睨まれているんだろうな、そう思いながら、ハンバーガー両方の手で持ちあげて包装紙を外していると、何気に先輩と目が合った。 食べさせてって言われた気がして、先輩の口許に運ぶとがぶってかじりついてきた。 「ちょっと先輩‼一口が大きすぎ」 「そうか?気のせいだろ」 「ううん、気のせいじゃない」 「ほら、カフェオレ。飲ませてやろうか⁉なんなら、口移しで」 「一人で食べれますから」 先輩の手からカフェオレを奪い返し、手に持って、ストローを口に含んだ。 「お前ら、バカップルか⁉」 「久喜たちの真似をしたまでだ」 「はぁ⁉」 「いつもようにいちゃつかないのか⁉」 先輩に焚き付けられた久喜さんが、増井さんの肩に腕を回そうとしたら、見事に払い除けられていた。 「何、ツンツンしているんだ?俺、何かしたか⁉」 「教えない」 ぷいっと顔を逸らしてしまった。 そんな二人に、僕らの仲の良さをわざと見せびらかすように、先輩は、ベタベタと甘えているようだった。手を恋人繋ぎしたり、キス寸前まで顔を寄せてきたり。 その一方で、増井さんはかなり苛立って、不機嫌そうに、むすっとしていた。 家に帰るまで、先輩は一言も発しなかった。 逞しい背中を追い掛けながら、薄暗くなり始めた空を見上げると、風が泣いているようだった。 増井さんとのこと気になって仕方なかったけど、沈黙を決め込んだ彼に、どう切り出していいのか分からなかった。 「あら、そうなの。じゃあ急いで準備しないとね」 もやもやしたまま家に帰り、香苗さんに祭りに行く旨を伝えると、自分の事の様に喜んでくれた。 「いやね、真尋が、ちょっと真尋ちゃんと付き合っているから、なんか、嬉しくて」 「心配しなくても仲良くしているし」 「見れば分かるわよ、そんなの。それよりも真尋ちゃん、表情が随分と明るくなって、良かったわ。初めてうちにきた時、思い詰めたような浮かない顔をしていたから・・・心配だったのよ。これからも、真尋の事頼むわね」 「はい、香苗さん‼」 手を握られ、縦にぶんぶんと大きく振られた。 「母さん、俺の真尋に気安く触らないでくれるかな?」 「真尋ちゃんはみんなのです」 「俺の‼」 僕を巡って、先輩と香苗さんが言い争いを始めた。 それがおかしくて。面白くて。 思わず吹き出してしまった。

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