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第34話

「母さん、甚平って普通子供が着るやつだろ⁉」 「そんな事ないわよ、ほら、ピッタリ‼」 「どうせなら、お揃いにして欲しかった」 「同じ紺色でしょう。我が儘言わない」 先輩は不満そうだったけど、忙しい香苗さんが、僕の為にわざわざ準備してくれた甚平だもの。喜んで袖を通した。 「ありがとうございます、香苗さん」 「真尋ちゃんの方がどれだけ素直か。少しは見習いなさい。ほら、真尋も着替えしないと、友達と待ち合わせしているんでしょ」 「あぁ、そうだった」 僕を見る先輩の目は温かい。『待ってろ』そう小声で口にすると自分の部屋に向かった。 彼の何気ない優しさが、じんわりと胸に滲みる。 先輩と初めてエッチした夜から、まだ、三日も経ってない。 だからかな、なんとなくだけど気恥ずかしくて。 先輩には申し訳ないけど、顔をまともに見れないでいた。 「ねえ、真尋ちゃん、真尋とその・・・」 香苗さんが申し訳なさそうに聞いてきた。 「昨日、今日と何だかよそよそしいから、喧嘩でもしたのかなって思ったの」 「喧嘩なんてしてません」 慌てて首を横に振った。 「そう、それならいいの」 「香苗さん、あのーー」 今朝、バイトに出掛ける時、お母さんって呼んでくれると嬉しいかも、あっ、でもね、無理はしなくてもいいのよ。そう言われた。 「お・・・かあ・・・さんって、呼んで、本当にいいんですか?僕、母の顔も知らないんですーー父の再婚相手なのか、恋人なのか知らないけど、その人の顔色を伺いながら、毎日、びくびくしていたんです。一度だけ、その人をお母さんって呼んだら、酷い折檻を受けたんです。だから、怖くて・・・本当に、お母さんって、呼んでいいんですか?迷惑じゃないですか?嫌じゃないですか?」 「真尋ちゃん、あなたって子は・・・」 香苗さんが、ボロボロと涙を流しながら、ぎゅっと抱き締めてくれた。

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