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第35話

「香苗さん、よその子の僕に、何故そこまで優しくしてくれるんですか⁉」 「理由なんてないわよ。真尋ちゃんがうちに来てくれてから、家の中が明るくなったし、真尋だって、いつもぶすっと不機嫌そうにして、会話すらなかったのが、人が変わったように優しくなって、よくしゃべるになったし。真尋ちゃんには感謝してるのよ」 涙を手で拭いながら精一杯の笑顔を見せてくれた。香苗さんがもっと笑顔になる為には?僕に出来ることは? そう、一つしかない。 「お、かあ・・・さん・・・」 緊張して、声が震えて上手く言えない。 「ありがとうね、すごく嬉しいわ。これでやっと・・・」 言葉に詰まった香苗さんの顔を見上げると、その頬には幾筋もの涙が流れていた。 「やっと家族になれるわね」 鼻を啜りながら、嬉しそうに微笑んでくれた。 「母さん泣きすぎ」 「五月蝿いわね、あなたには言われたくないわ」 「あと、真尋は俺の。いつまで抱き付いているの?」 「真尋ちゃんは、家族みんなのものです」 浴衣に着替えた先輩がひょっこりと顔を出した。普段とはまるで違う大人びた雰囲気と、あまりの格好良さにうっとりと見とれてしまった。 「そんなに見るなよ。恥ずかしいだろう」 苦笑いしながら、香苗さんにハンカチを手渡す先輩。 「母さん良かったな。俺達兄弟より何倍も可愛い息子が出来て」 「羨ましいでしょう。あっ、そうだ、遅くなる時は電話するのよ。迎えにいくから」 「母さんは、俺より真尋が心配なんだろ⁉」 「分かってるから聞かないの」 体をそっと離して、ハンカチで涙を拭きながら、軽い足取りで台所へ向かった彼女に、何度も頭を下げた。 「真尋、行こうか⁉」 大きく頷き、差し出された先輩の腕に右手を絡ませた。 「気分が悪い時は我慢せずちゃんと言うんだぞ。無理するなよ」 「うん、ありがとう」 然り気無く気に掛けてくれる彼の優しさが心に染みる。 彼のことが大好きなんだって、改めて感じた。

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