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第38話
「あの、久喜さん‼どこまで行くんですか?」
大通りから細い脇道に入り、街灯もない暗い路地裏を、無言でどんどん先に進んでいく彼。流石にここまで来ると、何かがおかしいと気が付いて、踵を返そうとした。
「今頃、あいつら、いちゃついているよ。よりを戻したんじゃないか?」
暗闇で彼がケラケラと嘲笑っていた。
「先輩に限ってそんな事ない」
「そうかな?」
久喜さんの腕が不意に伸びて来て、手首を鷲掴みされ、近くにあった雑居ビルの地下に連れて行かれた。薄暗く埃臭いフロアーには何軒か飲食店があって、そのうちの見るからに怪しい『カラオケスナック しのぶ』という店に、彼は躊躇する事なく入っていった。
「あら、今日は随分と真面目な子を連れて来たわね」
出迎えてくれたのは、香苗さんくらいの年恰好の、派手めの着物を着た化粧が濃い男性。
「しのぶさん、奥の部屋借りるよ」
「どうぞ。あっ、そうだ‼」
パンと男性が手を叩いた。
「ちゃんと、コンドーム着けなさいよ。若い子の間で性病流行ってるんだし」
「言われなくても分かってる。それよりも”あれ”ある!?」
「あるのはあるけど~~」
男性がちらっと僕の方を見た。頭の先から、足の爪先までジロジロと舐め回すように見られた。
「もしかして、童貞だったりする⁉」
「な訳ないだろ。真尋の今彼」
「あら、そうなの。へぇ~~」
だから、そんなにジロジロ見ないで欲しい。
僕が、何をしたというの。
それに、さっきの会話。久喜さん、僕に何をしようとしてるの?
恐怖で、ガタガタ震えながら、ずっと握り締めていた携帯の画面に目を落とし、着信履歴を押そうとした。
「さっきから言ってるけど、真尋も、ヤってる真っ最中だから、出れないと思うよ。この俺が、お前みたいな辛気臭い、どこにでもいるようなガキの相手をしてやろうっていうだ。有り難く思え。さぁ、来い」
「いやだ‼離して‼痛い‼」
久喜さんは、男性から小さな包みを受け取ると、必死に抵抗する僕の首根っこを掴かみ、奥の部屋に連れていった。
ごほっ、ごほっ‼
煙草の煙りがもんもんと立ち込めていて、思わず咳き込んだ。息苦しいのと、鼻を突く何ともいえない嫌な匂いに顔をしかめた。
部屋は、6畳くらい。
敷きっぱなしの布団の上に、半裸の3人の男性。ニヤニヤと薄笑いを浮かべ、まるで品定めをするかのように僕の体を見上げた。
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