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先輩の焼きもち
その上、予想もしていなかった香苗さんと、先輩のお父さんまでが姿を現したから、ますます不機嫌に。
「有馬さん、息子を助けて頂き、何とお礼をいっていいのか分かりません。ありがとうございます」
お父さんと香苗さんが、有馬さんに深々と頭を下げた。
「いえ、元保護者として当たり前の事をしたまでです」
有馬さんはにこやかな笑みを浮かべていた。
「どさくさに紛れて真尋の手を握らないで下さい‼」
先輩に腕を引っ張られ、肩を抱き寄せられたものの、香苗さんが僕に抱き付いてきた。
「良かった無事でーー怖かったでしょう」
「はい・・・でも、先輩や、有馬さんが助けてくれたから・・・」
「そっか、良かった、良かった」
香苗さんの目には涙が溢れていた。
「たく、涙脆いんだから」
先輩が溜め息を吐いた。
「仕方ないでしょう、真尋ちゃんが無事か、気が気じゃなかったんだもの。真尋からは、なかなか電話来ないし。どれだけ心配したと思うの」
「悪かったよ」
「あら、珍しいわね。素直に謝るなんて」
「五月蝿いな」
先輩は、香苗さんの前だと調子が狂うみたい。
そのあと、駐車場までみんなで色々と話しをしながら向かい、そこで有馬さんと別れた。
別れ際、何かをそっと手渡された。ちらっと見ると、携帯の番号だった。
『新しい番号。いつでも電話ちょうだい』
彼の目がそう言っていた。捨てるわけにもいかず、先輩に見つかったらそれはそれで大変だから、慌ててポケットに押し込んだ。
車の後部座席に先輩と一緒に乗り込むなり、ウィンナーを口に突っ込まれた。
いつのまに買ったのか。全然気が付かなかった。
「真尋と、いちゃいちゃしながら食べる予定だったのに・・・なんで、みんな邪魔するのかな⁉」
思わぬ本音が飛び出した。
「あと、一本あるから、縁側で二人で食べよう。父さん、母さんくれぐれも邪魔しないでよ」
むすっと口を尖らせる先輩。もしかして・・・これって焼きもち?
「真尋ちゃんはみんなのです‼」
「真尋一人だけのモノじゃないだろ」
香苗さんとお父さんも、負けじと言い返す。なんか、いいなこの感じ・・・。先輩ちの子になれて良かった。大好きな彼とこうして一緒にいれる幸せ。何物にも変えることは出来ないもの。
『大好き』そっと彼の耳元に囁き掛けると、手をギュッと握ってくれた。
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