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夏の恋と、あなたと見上げる甘色の空

「今日、何の日か分かる?」 翌朝、寝起きにそんな事を唐突に聞かれた。 「8月9日で、ハグの日」 「そうなんだ」 縁側で先輩とエッチして、それから、ここに運ばれて、甘く情熱的に、二度、三度求められて・・・気を失うまで先輩にめいっぱい愛された。半端なく怠くて、指一本動かすのもおっくうで、あちこちズキズキ痛いけど、不思議と心は幸せで満ち溢れていた。 先輩はもう着替えを済ませていた。僕はまだ裸のまま。開けっ放しの窓から時折吹き込んでくる、朝のひんやりとした風が火照った体に心地いい。 「今日、バイト休みだろ?俺も塾休みだから、指輪買いに行こう?」 アイスを食べながら、隣に腰を下ろしてきた。 「指輪って・・・」 爽やかな笑顔でさらりと口にしていたけど。一体幾らすると思っているんだろう? 「今までの貯金があるから・・・あと、結婚式の方は、父さんが心配するなって。母さん、朝っぱらから嬉しくて号泣だよ。真尋、家を出て一緒に暮らす事、しばらく母さんには内緒にしておこう。また、泣かれたら困るから」 「うん」 大きく頷くと、アイスを口に突っ込まれた。 「冷たくて美味しいだろ?」 甘いバニラが舌の上でほろりと溶けていく。アイス、久し振りで食べたかも。 「はい、どうぞ。返すよ」 棒を持って、先輩の顔の前に差し出した。 「いい、いらない。今は、真尋がいい」 先輩の不埒な手が、下肢を弄り、下へと滑り落ちていった。 「先輩‼」 昨日あれだけエッチしたのに。 「全然足りないよ」 先輩にがばっと抱き付かれ、バランスを崩してそのまま倒れ込んだ。 「もうくすぐったい‼アイス落ちちゃうよ‼」 彼とベットの上でイチャイチャしていたら、誰かの泣き声が廊下から聞こえてきた。 声の主は香苗さんだ。 「今いいところなんだから、邪魔するなよ」 「邪魔する気はないのよ。ただね、真尋ちゃんとこの家を出て、一緒に暮らすって聞こえたからーー折角、家族になれたのよ。なんで、家を出る必要があるの⁉真尋ちゃんと母さん仲いいわよ。それなのに、なんで⁉」 ドア越しに聞こえてくるのは香苗さんの啜り泣き。先輩、初めこそかなり苛立ちを露にしていたけど。 「せめて、半年だけ、真尋と二人きりで暮らさせてよ。力を合わせてどこまでやれるか試したいんだ」 先輩の表情が柔らかくなっていく。 頬をそっと撫でてくれる彼の掌は、慈しみに満ちてすごく温かい。 「母さんから、真尋を奪おうとは思っていないからーーこんなにも、仲がいい嫁姑を引き離そうとは思っていないから・・・」 「ありがとう真尋。母さん、頑張ってお父さんの事説得するからね‼」 パタパタと階段を駆け下りていくスリッパの音。 「真尋がうちに来てくれたお陰で、みんな幸せになれたんだ。午後に兄達が来るから、会って欲しい」 「うん‼」 先輩を見上げると、何故か笑ってた。 そういえば、さっきから、手首がベタベタしてるんだよな。 「あ”ぁ‼アイス‼すっかり忘れてた‼」 「だから、早く食べないと。勿体ない」 先輩の口唇が手首に近付いてきて、べろりと舐められた。 わぁぁぁ~~、メチャメチャ格好いい‼ ヤバイ、どうしよう。 ますます彼が好きになったかも‼ そのあと、朝っぱらから、大いに盛り上がったのはいうまでもなく。香苗さんたちに間違いなくエッチな声を聞かれたと思うと、本当、恥ずかしい。 午後、先輩のお兄さん達が遊びにきた。二人とも、噂通りのかなりのイケメン。女子にモテモテだというのも頷ける。 僕の事はあらかじめ聞いていたみたいで、全然驚かれなかった。 「なんでまた、同姓同名でくっつくかな⁉」 まぁ、愚痴は言われたけど、二人とも僕のを”家族”として受け入れてくれた。 天国にいる母さんへ。 今ね、僕、すっごく幸せだよ。 独りぼっちだった僕に、大切な彼と、家族が出来たんだよ。父さんも母さんも、お祖母ちゃんも、お兄さん達も、よその子の僕にすごく優しくしてくれる。真姫お姉ちゃんとも仲良しになれたよ。 だから心配しないで。 大好きな彼と、いつまでも、手を取り合って生きていくから。 彼と見上げる夏の空は、ほんのり甘くて。 一生に1度の恋をした思い出深い夏になった。 おわり

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