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森の中の家 2
食後に男が入れてくれたお茶はハーブティーみたいなものらしく、飲み慣れない味だけど結構おいしかった。
「あの、ちょっと聞いてもいいですか?」
食後のお茶を飲みながら、俺は気になっていたことを聞いてみることにする。
「あの、いきなりこんなことを言って信じてもらえるかどうかわからないけど、俺、こことは別の世界から、いきなりこの世界に来ちゃったみたいで」
男に対して自分が異世界人であることを打ち明けるのは、もしかしたら危険かもしれない。
けれどもこの人は、こちらの世界の人とは明らかに違う俺の服装を見ても驚かなかったし調べたり盗んだりしようともしなかったし、体が大きくて威圧感はあるけれども実際は優しくていい人みたいだから、打ち明けても大丈夫な気がする。
それでもちょっとドキドキしながら男の反応を待っていると、男は特に驚いた様子もなく普通にうなずいた。
「え、驚かないの?
もしかして、俺が異世界から来たってわかってたんですか?」
俺の質問に、男はまたうなずく。
「ってことは、この世界にはよく異世界人が来るんですか?」
俺の疑問に男はうなずく。
「そうなんだ……」
こちらの世界に俺の他にも異世界人が来ていることには驚いたけれども、同時に納得もした。
男が俺の服装を見ても驚かなかったのは、きっと前にも似たような服装の人を見たことがあったからだろう。
「それじゃあ、俺みたいな異世界人でも街で普通に生活できますか?
俺、それが聞きたくって」
声恐怖症の問題はあるにしても言葉は通じるから、街に行っても生活してはいけるだろうけど、異世界人は見つかると捕まって奴隷にされるとかいうような危険があるかもしれないと心配していたのだが、異世界人が珍しくないのならその心配は無用だったかもしれない。
俺はそう思ったのだが、俺の期待に反して男は首を横に振った。
「え、だめなの?
もしかして、異世界人だってばれたら捕まって奴隷にされたりするとか?」
俺の言葉に、男は困ったような顔つきになる。
どうやら奴隷にはされない代わりに他に何か問題があるらしいが、それを身振り手振りでも説明するのは難しいらしい。
「説明しにくいなら、筆談ってできませんか?」
それは悪くない提案だと思ったのだが、男は首を横に振る。
席を立って紙と鉛筆を持ってきて文字を書いて見せてくれたが、その文字は俺にはただの模様にしか見えなかった。
「あー、文字は翻訳されないのか」
俺ががっかりしていると、男はひらひらと手を振って俺の注意を引きつけて、自分のヒゲもじゃの口元を指差してみせた。
「え、口?」
俺の言葉に男はうなずくと、パクパクと口を動かしてみせた。
俺にわかりやすいようにゆっくりはっきりと何度も繰り返されるその口の動きを、自分でも同じように真似してみると、男が俺に伝えたがっていることがわかった。
「『口、見て』?」
俺の言葉に、男はそれであっているというように何度もうなずく。
え、本当に合ってるの?
この人が口動かしてもこっちの世界の言葉のはずなのに、何で俺にわかるんだ?
もしかしてそれも魔法的な力で翻訳されて、日本語みたいに見えてるとか?
理屈はわからないが、とにかく男が伝えようとしていることは理解できるとわかったので、俺は男に先をうながす。
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