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森の中の家 3
「えっと、『閉じ込められる』?
それって、牢屋とか?」
男は首を横に振って先を続ける。
「『大事にされる』けど?
『たまにひどい目にあう』……か。
閉じ込められるけど、扱いは基本的に良くて、でもたまにひどい目にあわされるって感じで合ってる?」
俺が確認すると男は大きくうなずいた。
「うーん、そうなんだ……」
男から教えてもらった異世界人の扱いに、俺は悩む。
大事にしてもらえるとはいえ、たまにひどい目にあわされるというのは具体的にどんなことかはわからないけどやっぱり嫌だし、何より閉じ込められて自由がなくなるというのは困る。
「あ、そうだ。
俺みたいな異世界から来た人で元の世界に戻った人っているんですか?」
異世界のお約束でたぶん無理だろうなと思いつつ聞いてみると、やはり男は首を横に振った。
うーん、困ったな。
元の世界には帰れなくて、街に出たら捕まって閉じ込められると言うのなら、俺が取るべき行動は……。
「あの、お願いなんですけど、俺をここに置いてもらえないでしょうか?
特技とかもないし、できることは少ないと思うけど、がんばって働きますから。
お金もないけど、もし俺の持ち物が売れそうなら生活費代わりにお渡しします。
俺、街に行って捕まって閉じ込められるのは嫌なので、何とかお願いできませんか」
俺が必死になって頼むと、男はあっさりとうなずいてくれた。
「いいんですか?!
ありがとうございます。
あ、そう言えば、俺をかくまったらあなたが罰せられるとかいうことはありませんよね?」
心配する俺に、男は大丈夫だというようにうなずく。
「ならよかったです。
それじゃあ、これからよろしくお願いします」
俺がぺこりと頭を下げると、男も同じように頭を下げてから、自分の口を指差した。
「えーと、『名前』?
あ、俺の名前ね。
和生 、谷村和生です。
あなたは?」
俺がそう聞くと男は首を横に振って、俺に向かってどうぞと言うように手を差し出した。
「え、『いいえ』ってことは、名前がないの?
俺がつけていいってこと?」
俺の言葉に男は大きくうなずいて、まるで俺がつける名前を楽しみにしてるみたいにニコニコしながら俺を見ている。
「えーっと、じゃあ、テディとか?
あ、待って、やっぱ今の無しで!」
熊みたいな大男なのに優しくて、ちょっと可愛らしいところもある男に、思わず世界的に有名なクマのぬいぐるみの名前をつけかけたけれども、慌てて取り消す。
こちらの世界の人があのぬいぐるみのことを知っているとは思えないけれど、やっぱりいくら何でもクマのぬいぐるみ扱いは失礼だろう。
俺はそう思ったのだけれど、男の方は違ったらしい。
男は首を横に振ると、自分を指差して『テディ』という口の動きを繰り返した。
「え、もしかしてテディっていうの気に入ったんですか?」
俺が問い返すと、男はニコニコしながら何度もうなずいた。
「うーん、気に入ったんだったらいいか。
じゃあ、あなたのことはテディって呼びますね」
そんなふうにして、俺とテディの森での生活は始まった。
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