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ささやかなデート 2
「わぁ……すごい。
水の中に花が咲いてる……」
たどり着いたのはきれいな水が湧き出る泉だった。
泉の中には水草が生えていて、たくさんの小さな白い花を咲かせている。
「きれいだね。
もしかしてテディ、俺にこの花を見せるためにここに来たの?」
俺の言葉に、テディはニコニコしながらうなずく。
「ありがとう! テディ」
俺は特に花が好きというわけでもないけれど、こんなきれいで珍しいものをテディが俺に見せようと考えてくれたその気持ちは素直にうれしかった。
昼にはまだ少し早かったけれど、俺たちは泉のほとりで弁当を広げた。
景色のいいところでテディと2人で食べる、いつもよりも豪華な弁当は、特別美味しく感じる。
会話もしながら楽しく食事を終え、デザートのリンゴをかじっていると、先に食べ終えたテディが口笛を吹き始めた。
聞いたことのないメロディは、きっとこの世界の曲なのだろう。
少し哀愁を帯びたゆったりとした曲調なので子守歌とかなのかなと想像しながら、静かに耳を傾ける。
一曲吹き終えたテディに拍手をすると、テディは照れたように笑いながら、俺に向かってどうぞというように手のひらを向けた。
「え、俺も? うーん……」
テディがそう言うのならと、俺も唇をとがらせて口笛を吹こうとしたが、唇からはフーとかスーとかいう息が出るだけだった。
「やっぱダメか。
俺、口笛吹けないんだよ」
小学生の時、友達の間でちょっと口笛が流行ったことがあったけど、その時も俺だけ何度やっても音が出なかったのだ。
中学や高校では口笛なんか吹く機会はなかったけど、子供の時に吹けなかったものが大人になったからといって、いきなり吹けたりはしないだろう。
俺が1人でふてくされていると、テディはなぐさめるように俺の腕を軽く叩いて、それから唇を動かした。
「『歌って』?
うーん、歌もそんなに得意じゃないんだけどなぁ」
それでもテディもこちらの世界の曲を聞かせてくれたのだし、俺もお返しにテディに日本の歌を聞かせてやりたいような気もする。
うーん、じゃあ何か短くて簡単なやつ……。
目の前の花が咲く泉を見ながら、そうやって考えていた俺の口から出たのは、童謡の『チューリップ』の歌だった。
日本人なら幼稚園の子でも歌えるその歌を歌いながら、俺は自分の顔が恥ずかしさに赤くなっていくのを感じていた。
我ながら、この選曲はないだろ!
小さい子に歌ってやるのならともかく、仮にも恋人に歌う曲にしてはあんまりだよ。
恥ずかしさに身もだえながらも、短い歌をあっという間に歌い終えると、テディはニコニコしながら拍手をしてくれた。
「え、『もっと』?
えー、もういいだろ?
もう、ほんと拍手とかしてもらうような歌じゃないから!」
俺がテディの腕をつかむと、テディは笑いながら拍手をやめてくれた。
俺はつかんだテディの腕をそのまま自分の胸に抱き混み、テディに寄り添う。
「……たまには、こうやってゆっくりするのもいいね」
俺の言葉に、テディもうなずく。
「時々でいいからさ、またこうやって出かけようよ。
のんびりする時間を作れるように、俺ももっと仕事がんばるからさ」
俺がそう言うとテディはうなずいて、空いている方の手で俺の頭を優しくなでてくれた。
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