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悔悟

ファミレスからカラオケに移動した。 「杏ちゃんと上手くいってるのか、やったな」 杏は夏のリゾートホテルでのアルバイト仲間の女子大生で、泉はずっと彼女にアタックしていた。 春翔、泉、拓は一緒に8月後半までバイトをしていたので、二人の付き合いが始まった事を知っていたが、先にバイトを辞めて今それを知った悠が、泉を祝福してくれる。 歌ったり、話したり、時間が穏やかに過ぎて行く。 拓がW大の女子と合コンした話しから、美味しかった居酒屋の話しになる。 「あの店は高田馬場駅から…」 瞬間、飲み物を手にしていた悠の手がビクつき、コップの中の氷がカラと音を立てた。 それまでずっと笑顔で話しを聞いていた悠の表情がこわ張り、動きが止まる。 時間にすればほんの数秒、でも明らかに張り詰めた緊張に支配された後、悠は静かにコップをテーブルに置いた。 「あ…俺、トイレ行く…」 悠が部屋を出て行くと、泉が口を開いた。 「…明るくしてたけど、かなりダメージ残ってる、な。同じとはいえ、ただの駅名を聞いてあの反応って」 拓が苛ついた様子で春翔にくってかかる。 「春翔さん、悠さんの事好きなんだろ。なのに何してたの?俺は春翔さんがもっとフォローしてると思ってたけど。会うのもバイト以降今日初めてって遅くない?悠さんの都合聞くばかりじゃなく、短時間でもいいからとか、会う努力した?高田の名前を聞くのも無理とか、あんな状態だってこと、把握出来てないじゃん」 「春翔さん責めても仕方ないだろ」 泉が拓をたしなめたが、春翔は言い返す言葉が無かった。 ほんとうに俺は、何をしてるんだ。 悠がアルバイトをしていた時、高田を中心とする三人の男にレイプされた事件は、泉、拓、春翔にも深い悔悟を残した。 泉は自分が春翔を誘って深夜まで遊んでいたからだと言い、拓はそばにいながら助けられなかった事を心底悔しがっていた。 でも、と春翔は思う。 でも、一番悪いのは俺だ。 泉は恋してる女の子へのアタックに一生懸命になっていただけ。体力自慢の三人相手に、拓が太刀打ち出来なかったのも仕方ない。 春翔は、バイト以降で会うのは今日が初めての悠に、言っていない事があった。

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