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悔悟2
悠が部屋に戻って来た。いつもの柔らかい笑顔を浮かべて。
気持ちを切り替える努力をして戻って来たのだろうと思うと、痛々しい。
拓が、反対意見は受け付けないという強さで言い放つ。
「今日はもうお開きにしよう。悠さん一緒に帰ろう」
夏のアルバイトは寝食一緒で長い時間を共に過ごしたので、プライベートなことも多く話した。
拓と悠が同じ区というのはわかっていたが、春翔にすれば、ましてや先ほどの動揺を見た後に悠をこのまま帰すわけにはいかない。
「悠さんは俺が送るから」
春翔が声をかけると拓が不機嫌そうに答える。
「春翔さんはもういいよ、どうせ家の方向も違うし」
悠がチラと春翔を振り返り、静かに言う。
「拓と帰るよ。…方角一緒だから」
春翔はそれ以上何も言えなかった。
地下鉄に乗る悠と拓と別れると、泉と春翔はJRに向かった。
泉が春翔を慰めるように話す。
「拓はさ、あの時現場にいて結果的に助けられなかったから、その後悔が強くて4歳年下でも悠さんに対しての保護意識が強いんだよ。でも春翔さんの気持ち知ってるから、バイト終わりから今日まで、自分がしゃしゃり出ないよう遠慮してた。その分、春翔さんに当たりがキツかったね」
春翔は小さくため息をついて返事した。
「言われても仕方ない。俺が悪い」
「いや、春翔さんなりにタイミングはかってたんだろうけど」
家に戻り、シャワー後にベッドに倒れ込む。あれこれ自分の失態が思い浮かんでうあーっと叫びたい衝動に駆られる。
一番の失態は、悠に伝えていないあの件。
春翔は事件前に高田達がビールを持っているのを見つけたが、注意も取り上げる事もしなかった。
日頃から素行が悪く何度も注意していた高田達に、遊びに行く前に時間を割くのはもう面倒だったのだ。
悠が三人に掴まったきっかけは、飲酒を注意したから、というのを後から拓に聞いた。未成年の飲酒を放置出来なかった悠は注意し、逆に女の代わりになれとキスを迫られ、段々エスカレートしていったと。
そして多量の飲酒は高田達の暴走を助長した。
あの時、ビールを取り上げていれば…。
何百回も繰り返した後悔をまたリピートする。
悠にその事実を伝えても、内心ショックを受けたとしても、きっと笑顔で『春翔のせいじゃないよ』と言うだろう。だからこそ悠に言えない。
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