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苦悩
季節は夏から秋へと移り変わる。
互いの想いを確かめる事が出来、春翔と悠は会う日々を重ねていく。
人目を忍んではキスをする。時にカラオケルームで、個室居酒屋で、大学図書館の書架と書架の間で、雨降りの日は傘の中で。
地下鉄の改札に入る悠を見送ってから、春翔は自分が乗るJRの電車に乗る。
座席で頭を抱えて座り込む。
本当は帰したくない。朝まで一緒にいたい。でも、その言葉が言えない。
『今日、いいだろ?』
『ホテル行こう』
『家来いよ、俺の両親共働きだから』
高校、大学とそれぞれ彼女はいて、セックスの経験もある。過去に使った言葉、あれこれを思い返す。その時その時の状況は違うが、いずれもどう誘うかを考えても、誘う事を躊躇った事は無い。
悠と出会ったバイトに行く直前に別れた彼女は一人暮らしだったので場所にも困らず、誘うとかの意識も無く、デート後はセックスに流れていた。
悠に対する想いは、会うたびに深まる。
目が合うと見せる優しい笑みが可愛い。
キスした後、恥ずかしそうに下を向く仕草が愛しい。
好きだから抱きたいと思う。
抱きたい。
それはどういう言葉で誘っても、要はセックスがしたいという意味なのだ。
どれ程に気を配っても欲情を露わにすれば、強姦された悠の傷を抉る事になるのではないか、そう思うと春翔は踏み込む事が出来ない。
春翔達の通う大学は、5月と11月と2回学祭がある。悠に11月のK祭へ一緒に行こうと言うと、俺からも誘おうと思ってたと嬉しい言葉をもらう。
当日、様々な出し物を見て歩く。
「何か飲む?」
「そうだなぁ、じゃ、そこのリンゴジュース飲もうかな」
「あ、俺買うから」
親に世話になっている学生の身分で、普段のデートで全て払うなんてカッコつけることは出来ない。基本は割り勘だが、端数など悠の方が多く払っている事もある。就活に向けてバイトも制限し始めているので、情け無く思っているが甘えている。
せめて学祭中くらいデートっぽく払いたい、学生模擬店のものなんて数百円のものばかりだけど。
「どうぞ」
模擬店でよくある氷水につけて冷やしているパックジュース、周囲の水分をハンカチで拭き取り悠に渡した。
優しい、と悠が呟いたので春翔は内心ガッツポーズ。これはポイントゲット。
中央の特設会場でひときわ大きな拍手が起こり振り返る。
「ああ、女装コンの優勝が決まったのか」
ステージ上でいかにもなカツラや衣装を身に着けた美女達が並んでいる。
「悠さんが出れば断トツで優勝だろうね」
春翔が言うと悠はさらっと返事した。
「優勝したよ、2年連続で」
「ええっ!?」
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