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覚悟
春翔の驚きをよそに悠は話しを続ける。
「1年の時同じ授業取ってた奴が実行委員やってて、頼まれて出たら優勝してさ、2年の時も頼まれて出て2連覇した。K祭は下級生主体の学祭だからさすがに3年からは出てないけど、あれ?春翔?」
悠の視界から春翔が消えたので振り返るとしゃがみこんでいる。
「春翔?どうした?気分でも悪いのか?」
悠がしゃがみこんでいる春翔の肩に手をかけ覗き込む。
「いや、俺はなんで年下なんだろうってショックで」
「何それ」
「だって悠さんが1年2年って俺は高2と高3、学祭は見てない。見たかった!めっちゃ見たかった、悠さんの女装!そうだ、写真とか残ってないの?携帯に入ってない?」
「あはは。自分の女装写真なんか残してないよ。諦めろ」
「えーだって優勝したんだろう、どっか残ってないの?」
「そうだなぁ、まぁたぶん母親は持ってるな。客席の前で撮りまくってたから。俺さ、自分でいうのはどうかと思うけど、ちょっと上の二人とは歳の離れた末っ子で、まあ親にもきょうだいにも可愛がられてたというか、学祭なんか母親も姉さんも見に来てたんだよ。女装コンに出るのは隠しようがなかった。服とかメイクとか、全部姉さんから借りたから」
「そういえばお兄さん、お姉さん両方いるって言ってたね」
「うん、3人きょうだいの末っ子。兄も姉も今は独立してるから、実家には俺だけ」
「悠さんが子どもなら、そりゃ親は可愛いだろうな。学祭なんかも見に来ちゃうよ」
「うーん、女装を母親に見られるのは複雑だけど。でも」
悠が一呼吸おいて続ける。
「でも、春翔が写真見たいなら俺の家来る?」
「え、家?」
「うん、母親に確認するけど、写真はきっと持ってる」
「嬉しいけど、なんか緊張するな」
「緊張なんかしないでいいよ。両親共出張の多い仕事で、だいたい俺しか居ない」
秋風がすーっと通り過ぎ悠の髪を揺らす。
春翔は髪をかきあげた悠を見つめる。
「見たいけど、やめとく。俺自信がない」
「自信?」
「誰もいない家なんか行ったら」
春翔は悠の目を見つめた。
「他に誰もいない家に行ったら、俺、悠さんに手を出しちゃうよ」
悠の表情に微かな戸惑いが浮かぶ。
「それはマズイでしょ。だからやめとく。写真は見たいけど」
春翔はニコッと悠に笑いかけた。
「他の模擬店見に行こう」
歩き始めた春翔の腕を悠が掴んだ。
「いい…春翔なら手出してもいいから」
その瞬間、春翔は自分達と周囲の喧騒との間が見えないバリアで隔絶されたような感覚に陥る。
自分の腕に掴まり意を決した表情の悠を、春翔は言葉を発する事も忘れて、ただ黙って見つめた。
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