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記憶
春翔は悠の肩に手を添え、起き上がるように手伝った。
悠はいわゆる三角座りの姿勢になると自分の膝の上に腕を置き、再び顔を埋める。
春翔は悠の動きを見ながら、横に並んで座った。
「情け無い…もっとしっかりしないとって思うのに…」
悠が顔を下にしたまま、呟く。
「悠さん、怖い?」
「…うん…男なのに、お前より年上なのに、みっともない」
「ねえ悠さん、どこで怖くなった?」
「え…?」
「キスは普段から大丈夫だよね。じゃあさっきはどこで?」
「それは…」
「今まで、俺からあの日のことは聞かなかったけど、それはさ、嫌な記憶も少しずつ薄れていくかなって、それを待ってたところがあるんだけど、でも、悠さん見てると、思い出す思い出さないじゃなくて、無理矢理何も無かった事にして記憶に蓋してる気がする。どうするのが一番いいのか正直わからないけど、何もなかった事にするのは、無理があるよ、たぶんね。俺は確かに年下だけど、もっともっと頼りにしてもらいたい。悠さんの事は辛い事もしんどい事も全部知りたい」
悠が顔を上げて春翔を見る。
「なかった事に…しようとしてたかも…」
「俺が嫌がると思ってた?」
「気を使わせたくなかったから」
「悠さん、話して。さっきは何が怖かった?」
「さっきは…横になってから服を上にあげた時、あいつらに脱がされた後縛られた記憶が襲ってきて」
「縛られたのが怖かった?」
「うん…」
「自由奪われたら、男でも誰でも怖いよ。辛かった、苦しかったって、もっと俺に八つ当たりして喚いてよ、我慢しないで」
悠は少しの間を置いて春翔に聞く。
「…拓からも話し聞いた?」
「拓の知ってる事は聞いた。飲酒を注意したら逆にあいつらに絡まれて、暴力振るわれそうになった拓を庇って悠さんがキスの相手になったって」
悠は小さく息を吐き、話しを続けた。
「俺も考えが甘かった。キスくらいで済むならいいやって思って。でも結局、エスカレートして押さえ込まれて。冗談で終わらない様子にまずいと思って必死に抵抗して足をバタバタさせたんだよ。そしたら高田のみぞおちに蹴りが入ってさ。それが凄く腹が立ったんだろうな、多分。思い切りビンタされた」
春翔は怒りを必死に抑えながら聞き役に徹する。
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