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闇夜に忍ぶ影

ー蛍sideー 「ともきぃー、約束のゲーム買って来たぞぉ」 俺はそう言いながら、ズカズカと親父の家に上がり込む 居間でライさんと楽しそうに談笑していた智紀が、「やったー」と飛び跳ると、俺のもとに駆け寄ってきた 「まじで? この前、言ってたゲーム?」 「ああ。ネットでさ。安く買えたんだ。やろうぜ」 「やろうやろう! 今夜は道元坂の帰りが遅いって言ってたから、たんまりできるぞ」 智紀が俺の手にあったゲームを奪うと、スキップすながらテレビのほうへと近づいて行った 俺はライさんの視線を痛いくらいに感じながらも、目を会わせずに、智紀のほうに近寄った 「智紀がそんなにテレビゲームが好きだとは思わなかったよ」 「好きっつうかさぁ。やることがねえんだよ。外でバイトすんのも、道元坂が嫌がるし、どうしても家ん中で過ごすことが多くなっちまって」 智紀がブツブツと言いながら、テレビゲームの準備を淡々と始めて行く 俺はソファに座ると、ゲームの準備が整うのを待った 「ライさんもやる?」 智紀がちらっとライさんに声をかける 「僕にできるゲームですか?」 「うん、誰でもできるって」 智紀が、ゲームの取り扱い説明書をライさんに渡していると、俺の携帯が鳴った 電話の相手は、親父だった 「先に、始めててよ」 俺は携帯を持ったまま、廊下に出ると、通話ボタンを押して耳に付けた 「親父?」 『蛍、どこにいる?』 「親父んち。智紀とゲームしているよ」 『良かった。今日はこのまま泊って行け』 「え? なんで?」 『女が殺された。今朝、蛍が抱いた女だ。情報が私に流れたのがわかったのだろ。暴挙に出るかもしれない。だから、今夜は…』 「わかった。親父んちにいるよ」 『ああ。私は今夜帰れないかもしれない、と智紀に…』 「それは自分の口で言えよ。俺から言うのはおかしいだろ」 『そうだな。じゃ。くれぐれも気をつけろ』 「智紀じゃねえんだから。平気だよ」 俺は電話を切ると、そのまま電源まで落とした 何かあると嫌だし、組織の連中から電話がかかってきも面倒だからな 俺は居間に戻ると、ダイニングテーブルに携帯をポンと置いて、ソファに座った ライさんと智紀が、対戦ゲームをしている最中だ 親父、大丈夫だろうか? 一人で…平気だろうか? 今夜、帰れないって…智紀が心配すんじゃん いいのかよ 家の電話がけたたましく鳴りだす 「なんだよー、ゲームしてんのにぃ」と文句を言いながら、智紀が席を立った 「あ…道元坂だ」と相手を確認してから、智紀が受話器を握った 「今夜、僕の部屋に来ますか?」 小声でライさんが誘ってくる 俺はくすっと笑うと、「親父が帰ってきたらね」と返事をした ライさんはずるいよ 俺が部屋に誘われれば、断らないって知ってて誘うんだから 部屋に引き込んで、今朝のこと根ほり葉ほり聞くんだろ? 話さないと、ヤラせないとか言って俺を脅すんだから わかるよ、ライさんの行動くらい そんなふうに俺を誘うんだからさ 観念して、俺と付き合ってよ 「道元坂、今日帰れないかもしれないってさぁ」 電話を切った智紀が、少し明るめの声で俺らに告げてくる どういうことです? と言わんばかりの顔で、ライさんが俺の横顔に視線を送ってくるが、俺は知らない振りをした 「なあ、智紀。なんでそんなに嬉しそうなんだよ。親父が帰ってこないんじゃ、寂しいんじゃねえの?」 「ええ? 別にさびしくねえし。蛍が来てるって言ったらさぁ。道元坂が、『じゃあ、蛍には泊っていってもらえ』って! 今夜はゲームで夜更かししようよ」 ルンルンとスキップを踏み出しそうな明るい雰囲気で、智紀がソファに戻ってくると俺の両肩をポンっと叩いた 「まあ…いいけど。でもさー、ぜってー俺が負けんじゃん。左指があんま動かねえんだから」 「いいから、いいから。俺が勝てるんだから、いいだろ?」 「んだ、そりゃ? 俺が負けるのはいいのか?」 「俺が気分がいいんだよ。道元坂がゲームに全く無関心だし…。なのに、ちょっとやっただけで、めっちゃ強くなるから、対戦相手としては嫌なヤツなんだよ」 要は、智紀が勝てる相手を勝負をして、勝利を味わたいだけなんだろうが まあ、それなら…俺がちょうど良い相手ってわけね 親父もライさんも、大して興味がないわりには、要領がいいから、すぐに勝っちゃうしな ライさんは智紀を気遣って、負けてやってるけど、その余裕も智紀には気に入らねえんだろ 「さあさあ、やろうぜ! ゲーム大会、朝までコース開始」 「え? 朝まで?」 「嫌なのかよ」 智紀が俺の隣にどすんと座ると、キッと俺を睨んできた 「嫌っつうか。俺、明日も大学があんだけど」 「いいじゃん。授業中に寝れば」 「あのなあ…」 俺は右手でぼりぼりと頭を掻いた 寝かせろよ 昨日だって、ほとんど寝れなかったんだから 『女が殺された』 親父の声が蘇り、俺は下唇を噛んだ 微妙にでも、関わりを持っちまった人間の死は、今でもキツいな 親父は、どうやって心の蟠(わだかま)りを処理してきたんだろうか 何年経っても、乗り越えられない壁だ 見知ってしまった人間の死は、俺の心を黒く蝕んでいくかのようだ 俺と関わってしまったばかりに…なんて、後悔する気持ちが生まれてしまう 俺を知らなければ、生きてたかもしれないのに、とか 永遠と出口の出ない思いをぐるぐると廻らせて、一人で勝手にブルーになってしまうんだ

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