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闇夜に忍ぶ影3
「全然、へーき。だって、俺、何もしてねえし。組織のトップって言ってもさ、名前だけっつうの? あいつらが欲しいのは、俺の手腕じゃねえんだよ。血が欲しいんだ。小森 梓の血が流れている人間っていうブランドさえあれば、満足なんだ」
「悔しくねえの?」
「悔しい? だからさ。俺や親父は、感情の起伏があんまないんだって。色とりどりある感情は、育てられなかったんだよ」
「それでも…やっぱ、自分を認めてもらえないところにいるって、息苦しくないのか?」
「そうだな。時々、甘える場所が欲しいと思うけど…一番に甘えたい人は、俺を見てないから」
俺はちらっとライさんを見やった
いつまでも待てる男でもないんだよな、俺さ
「…ああ、もう寝ようぜ、智紀」
俺は背伸びをしながら、盛大なあくびをした
「そうだなぁ。ゲームのし過ぎで指も痛いし寝ようかな?」
「寝て起きたら、きっと親父も帰ってくるだろ?」
「うーん、たぶんね」
智紀がコクンと頷く
「んじゃ、ライさんをお前のベットに運ぶか。親父がいない夜は、ライさんと寝てるんだろ?」
「あ、うん。何で知ってんの?」
「あ? あんたら三人の動きくらい…容易に想像できんだよ」
俺は立ち上がると、ダイニングで寝ているライさんを抱き上げた
お姫様だっことでも言うのだろうか
起きているときにやったら、拳銃で腕や足を撃ち抜かれそうだけど、な
俺はライさんをベッドにまで運ぶと、静かに布団をかけた
やっぱ、綺麗な顔立ちしてるよなあ
ずるいよ、ライさん
本当にズルすぎるよ
俺の心を掴んで、離さないんだからな
適度に距離をおいて、適度に俺を縛る
そろそろ叶わない恋心に終止符を…なんて想い始めると、俺を呼び出して、俺に足を開く
散々俺に抱かれて、期待を持たせて、あっさりと振るんだ、あんたは
それでも次を期待している俺も、俺か
「んじゃな、智紀」
「あ、おやすみなさい」
智紀がひらひらと手を振って、寝室のドアを閉める
俺は居間に戻り、ソファにごろんと横になった
「ねむっ…」
二日連ちゃん、太陽を拝むのはキツいなあ
ま、今日はまだ太陽はあがってねえけど、日の出まであと1時間くらいだろ?
あー、大学に行くのが面倒になってきた
カリっと皮膚を噛まれた感触で、俺は瞼を持ち上げた
うす暗い室内で、誰かが俺の上に乗っている
しかも…なんか服が乱れてるんだけど
ワイシャツ姿のライさんが、俺の上に跨って、俺の鎖骨を噛んでいた
「ラ…ライさん?」
ワイシャツのボタンを外し、右肩のシャツがずり落ちているライさんが身体を起こすと、俺を見下ろした
「あれ? 今、何時?」
カーテンの隙間から洩れる明るい日差しに、俺は時計を探した
「5時すぎです」
寝たばっかじゃん…俺
俺は右手で額をパチンと叩くと、「はあ」と息を吐いた
とっても美味しい状況だけど、寝不足でけっこう身体がキツい
それにここは親父の家だし、なんか気兼ねしちまう
カチャと引き金を引く音がすると、胸元に拳銃を突きつけられた
なんか…いつも、俺ってライさんに拳銃を向けられてるなあ
「僕に内緒にしていることがありますよね?」
「内緒?って」
「恵と蛍で結託していることです」
「結託ってほどじゃねえし。それに親父に忘れろって言われたから、忘れちった」
ぐっと、銃口で胸を押される
「そう簡単に記憶を操作できないでしょ?」
「でもライさんには言えない」
ライさんの目が細くなった
瞬きを一回ほどすると、拳銃をテーブルに置いて、ワイシャツを正した
「そうですか。言う気がないなら、もう良いです」
「親父に言われてんだよ。俺は別に言ってもいいと思ってたんだけど…親父から口止めされってから」
「もう良いです」
ぷいっと俺から視線を外したライさんが、拗ねたように俺から降りて、ワイシャツのボタンを留めていく
「ごめんな」
「うるさい。もう良いと言ったら、良いんです。そのかわりセックスはしませんから」
「わかってる。俺の身体なんてそんなもんだろ」
「え?」と、ライさんの手が止まる
「セックスフレンドってこと。ライさんが欲求不満でどうにかなりそうにならなきゃ、俺は用なしなんだよ。ま、それでもいいって思ってたけど。そろそろ限界かも」
俺は起き上がると、引き上げられていたシャツの裾をおろした
「俺、帰るから。親父が戻ってきたら、そう言っておいて」
俺は固まったライさんの肩にポンと手を置いてから、玄関に向かった
もう、会わないほうがいいかもな
俺、ライさんの傍にいたら一生諦められそうにねえし
俺は親父のマンションを出ると、大きく伸びをした
「あー、そろそろ真面目に組織とやらを考えるかなぁ」
首を横に倒して、コキコキと関節を鳴らすと、朝焼けの中を一人で、すたすたと歩き出した
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