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連絡のとれない息子
ー恵sideー
呼び出し音がいくら鳴っても出ない蛍の携帯に、一体何度かけたら、息子の声が聞けるのだろうか
私は「ちっ」と舌打ちをすると、テーブルに自分の携帯を投げた
午前六時過ぎに、家に帰ってきたら…寝室に智紀とライが寝ているだけで、蛍の姿が見当たらなかった
すぐに電話をしたが、すでに音信不通になっていた
その後、しばらくして…路地裏から蛍の組織の人間の死体があがったと私の部下から連絡が入った
額に一発ずつ弾を喰らっていた
蛍はナイフ遣いだ
拳銃は持ってない
それならライの仕業かと思ったが、ライの持っている拳銃と経口が違うと報告があったから…ライではないだろう
蛍と連絡がとれなくなって、すでに半日が過ぎた
新組織を立ち上げようとしている人間に殺されてなければいい
カチっと後頭部で音がすると、銃口を突き付けられる感触があった
「隠し事はナシでいきませんか?」
ライの低い声に、俺は思わず口元を緩めた
智紀のことで何度か拳銃を向けられてきたが、とうとう蛍でも銃口を向けられるとは
「智紀のことで隠していることはない」
「そうでしょうね。でも僕が聞きたいのは、智紀の話ではなく…」
ライの言葉が止まった
俺はライの次の言葉を待った
「話してください」
「なんのことだ? 智紀ではないなら、誰の話だろうか?」
「わかっているくせに…なぜ言わないんですか?」
「誰の話のことだか…私には見当もつかない」
「そうやって僕を追い詰めるのが…恵は好きですよね」
「追い詰める?」
「ジュニアです」
「ああ…蛍か。それがな。全く連絡が通じなくなって焦っている」
「は?」
「ライ、お前…蛍を振ったか?」
「え?」
ライの目が左右に動き、動揺の色を見せた
蛍がここに泊ったとして、ライと蛍が何もしなかったとは思えない
きっと、ライが身体をちらつかせながら、蛍から隠し事を聞きだそうとしたはずだ
そのはずなのに、ライが何も知らずに、私に銃口を向けているなら…
蛍が口を割らずに、ライも抱かずにここを出て行ったと考えて良い
ライを抱かずに、ここを出ていく…きっとそれなりの覚悟をしていたと思ってもいいだろう
「そうか。蛍は組織の人間になるのを選んだわけだな」
「は?」とライが眉間に皺を寄せた
「ライを抱かなかったのだろう? あの子は6年待ったんだ。ライが振りむいてくれるのを。こんなに近くにいて、6年は厳しかったと思うぞ」
私は立ち上がると、スーツの上着を脱ぎ捨てた
「蛍が組織に人間になろうと決めたのなら、今や私の電話に出るはずもないか」
ネクタイを緩める
ライはだらりと手をおろし、拳銃を床に落とした
「組織に?」
「そういうことだろ? ずっと命を狙われていたし、ある程度証拠も掴んでいるしな」
「命を狙われていた?」
ライの視線がゆっくりとあがった
「ああ。私が解決するから、昨晩はここにいるように伝えておいた。なあ、ライ。蛍が今まで、組織になじまず、真面目に生きてきたのは誰のおかげだったと思う? ライが、俺側にいて、ライとの約束があったからだ。忠実に、かつ確実にお前の言いつけを守っていた。それでも蛍は男だし、欲望がある。不安も心細さも。ライ、条件を出しておいて、受け入れるつもりが本当にあったのか?」
ライが、下唇を噛み締める
「わかりません」
「そのお前の気持ちが、蛍を孤独にさせ…組織に頼りたくなったのかもしれないな」
「僕のせいだと?」
「それ以外に何がある? ライが蛍の気持ちを受け入れ、恋愛を育んでいたら…今も蛍はお前の傍にいたはずだろ?」
「ジュニアが勝手にあっち側に行っただけだ」
「条件を出しておいて、蛍の心を無視し、セックスしたいときだけ、蛍の気持ちを受け入れて…それでもまだ蛍がライを頼ると思うか?」
ライが、拳銃を拾って、腰の突き刺した
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