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連絡のとれない息子2
「僕のせい…って、責めたいなら責めればいいさ」
「お前は不器用すぎる。どうして手の届く場所にいるうちに、手を伸ばさない?」
「うるさい」
「ライっ。逃げるな」
「逃げちゃいけないっていう法律なんてない。僕は、蛍を好きじゃない。あんなヤツ…僕は嫌いだ」
ライは小走りで廊下に出て行った
靴を履く音がすると、玄関を飛び出していくライの後ろ姿だけを私は確認した
素直になれ
蛍が殺されてなければいい
蛍の命を狙うモノたちから、蛍が逃げ切れていればいいが
「はあ」とため息をつきながら、私は携帯の呼び出し音を断ち切った
出ない
蛍、どこで何をしているんだ
「道元坂? 蛍に電話してんのか?」
キッチンで夕食を作っている智紀が、心配そうに顔を出してきた
「あ、ああ。出なくて、な」
「なあ、蛍とライさんで何かあったのか?」
「何で?」
意外と智紀は察しがいいな
「だってさ。昨日のライさんが明らかにおかしかったから。ずっと黙ったままで、何度も何度も蛍を見つめてるんだ。気付いて欲しいと言わんばかりに。なのに、蛍は知らんぷりして、俺とばっか話をして、ゲームに盛り上がってるふりをしてたから。俺が突っ込むべき間柄じゃないしさ。聞けなかったけど」
智紀が、寂しそうな顔をして、キッチンに戻っていく
そうか、智紀にもわかるくらい、二人はぎこちなかったのか
私は椅子の背もたれに背を預けるや否や、携帯が鳴りだした
液晶を見ると、相手は蛍からだった
「蛍? 何かあったのか?」
私は席を立ち、ついついいつもより大きめな声を出してしまう
智紀も料理をしている手を止めると、私のほうに視線を動かすのがわかった
『お、親父? どうしたんだよ、何度も電話してきて』
「心配するだろ。何度かけても電話に出ないで」
『あ、うん。まあ…ごめん』
蛍のない落ち着きのない声が、気になる
まるでまわりを気にしながら、電話をしているように感じた
「蛍? どうした? 落ちつきがない」
『あんま時間がねえから、要点だけ言うよ。俺、前みたいに親父んとこに行けなくなった。でも安心して。俺、平気だから。元気にしてる。ちゃんと家にいるし。あ、でも…家に来んなよ。マジで。なんか…やばいことになったっつうか』
こそこそと話している蛍の背後から、『蛍? 誰に電話をしている?』という男の声が聞こえた
『親父に。何度も着信があ……って、おいっ』
ブツっと荒々しく通話が切れた
「蛍? 蛍っ」
くそっ、後ろで声がしたのは誰だ?
私は蛍の言葉を思い出す
ちゃんと家にいるのに、やばいことになってる…とはどういうことだ?
少し調べる必要がありそうだな
「道元坂? 蛍は平気なの?」
「さあ? 今の電話の限りでは、『平気』とは無縁の場所にいそうだが。その前に調査が必要だな」
私はダイニングテーブルにつくと、携帯を耳につけた
ライには頼めないな
蛍の身辺調査は別の人間にやらせよう
『家に来んなよ』か
そう言われると、行きたくなるじゃないか
蛍の家に、誰がいると言うのか
知りたくなる
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