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知らない男たち

ー智紀sideー 「あー、また負けたっ!」 俺はコントローラを床に置くと、『ちっ』と舌打ちをした 一通りの掃除を終えて、俺は蛍から貰ったゲームに夢中になっている 床にごろんと横たわると、俺はぐぅっと背伸びをする ゲームを始めてから1時間…負けまくっている 次のステージに行くべく、ラスボスと戦っているのに、一向に勝てる気配がない 聞き飽きたラスボスシーンの音楽が、耳の中でコダマしている 鼻歌で歌えてしまいそうだ 激しくボタンを押し過ぎて、親指とひとさし指が痛い 俺は起き上がると、再チャレンジしようと腰を持ち上げたときだった 『カタン』と音が鳴った な、何だ? 窓は開けてないし、玄関もしっかりと鍵をかけている 道元坂は、まだ帰るに早いし…ライさんだったら帰ってくる前にきちんと携帯にメールなり電話を入れてくれる 俺は、ゲームのラスボスシーンのロードをしてから、そっと立ち上がった 何か嫌な予感がする 道元坂とライさんは、蛍を迎えに行った なんだか…蛍の組織と新しく手を組んだ組織が、蛍を監禁している…とか何とかって道元坂が話してた 詳しくは教えてくれないけど、今日は蛍を取り返しに行くから、少しの間だけライを使うって だから、余計…俺が敏感になっているかな? 弱きになっている…とも言うけど ただ棚の上に置いてあったモノが落ちただけかもしれないし わからない…わからないから、怖い 俺は足音を立てないように、立ち上がると携帯を握りしめて、居間の隣にある和室に向かう 障子の裏に身を潜めた テレビからは、ボス戦の曲が流れている その合間からギシ、ギシとゆっくりと近づいてくる足音がした やっぱり…家の中に、誰かいる しかも、こっそりと気付かれないように足音を押さえている …てことは、俺を狙ってる? 道元坂…失敗したのか? いや、違う 失敗したのなら、俺を狙う必要はない、よな? 蛍の奪還に成功して、相手がさっそく動き始めた? なら俺はこんなとこで、身を潜めていたら即効、殺されるじゃん でも隠れる場所なんて… 俺は後ろを振り返って、押入れを眺めた あそこしか、ないよな? でもわかりきった隠れ場所過ぎて…、すぐに見つかりそうだけど ここにいても、押入れに隠れているより早くに見つかっちゃうし 一か八か、隠れるしかないよな 時間が稼げれば、もしかしたらライさんや道元坂が戻ってくるかもしれないし ゲームの音楽で、少しのモノ音が消せる今しか、隠れるチャンスはないと思う 俺は和室の障子を閉めてから、押入れの襖を開けた あまり物が入っておらず、隠れるには充分な隙間があるが… 見つかりやすいっていう難点がある 俺は「ふう」っと息を吐きだすと、押入れの中に身体を入れた 衣装ケースを押入れのギリギリまで、押し出すとその裏側に横たわるように身体をねじ込み、襖を静かに閉めた 視界が暗くなる 携帯であたりを明るくすると、襖を開けた時に俺の身体が見えないように、小物を見つけては衣装ケースの上に置き、ケースの奥側が見えないようにした 続けて、携帯でメールを送る 道元坂とライさんに一斉送信をする 『家の中に、誰かがいる。早く帰ってきてくれ』と 携帯がバイブになっているのを確認してから、携帯を握りしめて身を縮めた 早く…道元坂…帰ってきてくれ 怖い、怖いよ ここに隠れているのだって、そのうち見つかってしまう 時間の問題だ ゲームの音がするのに、俺の姿がないってわかれば、きっと家中を探し始めるだろうし… 俺は携帯をぎゅっと握りしめた 和室の部屋の障子が、開く音がする 心臓が、ドキッと跳ねあがった 相手に、俺の心拍が聞こえてしまうのではないかと思うくらい、ドキドキと激しく鳴り響く 頭の中に心臓があるんじゃないかってくらい、心臓の音がガンガンを響いてる 押入れの襖を開けないでくれ 開けても、奥まで見ないでくれ 衣装ケースの裏に俺がいるかも…とか思わないでくれ 頼むから、俺に気付かないで、押入れを閉めてくれ ぱっと襖がスライドして、俺の瞼の裏が明るくなる 誰かが押入れを見ているのだ 早く、閉めろ! 俺はいない…この家にいないって判断して、さっさと居なくなてくれ 俺は心の中で叫びながら、携帯を握る手にじわっと汗が広がっていくの感じていた

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