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懐かしい部屋

ー智紀sideー あ、ここ… 俺は黒いジャケットに黒いズボンを穿いている男に背中を押されて、入れられた部屋を見て、懐かしい感覚に落ちた 一度、入ったことがある 梓さんが生きていた頃に、無理やり拉致られて、閉じ込められた部屋だ 俺は前のめりになりながら、部屋の中央まで進むと、ドアのほうに振り返った 「しばらくここで過ごせ。私は廊下にいる。何かあったら声をかけろ」 「わかった」 額に大きな切り傷のある男に、俺は頷いた 額の傷はやっと血が止まったばかりだ 俺が花瓶を投げつけて、怪我を負わせた 押入れの中に隠れているのが見つかって、衣装ケースを押して、男を転倒させて、家中を逃げ回った 花瓶を投げて、ゲームのケースを投げて、棚を倒して、道を塞いで… 結局は、逃げ切れずに掴まってしまったけど 俺はどこも怪我をしていない 目の前に立っている男が、丁重に扱ってくれたからだろう 拳銃を突きつけるわけでもなく、凶器で脅すわけでもなく 俺を捕まえると、「ボスがお呼びだ」とだけ言って、車に乗せて、蛍の屋敷に連れてこられた 「翔、随分と派手に怪我をしましたね」と、ドアの向こうから声がすると、すらっと手足の長い白人男性が姿を現した 「カイル様」と額に傷のある男が、ぺこっと頭をさげる どうやら、この人が蛍を監禁していた男っぽい 綺麗な顔立ちをしている まるで女性…いや、中性的な顔立ちなのだろう 細身で、骨格ががっちりしてなければ、繊細な女性にも見えてしまう 「君がトモキ?」 「あ…うん。楠木 智紀だけど」 「そう。道元坂の恋人か。意外ですね。ちょっと予想した顔とは違った」 俺は苦笑いを浮かべた 餓鬼臭いと言われているのか それともアホっぽいと言われているのか… とにかく道元坂の恋人っぽく見えないってことははっきり言われたわけだ 別に、いいけど 全然、気にしないし! 「予定外なことに、君にはしばらく僕と行動してもらいます。君がこっちに来れば、スムーズに蛍が戻ってくると思ったんですけどね。道元坂は面倒くさい男みたいです」 カイルと呼ばれた男が、にこっと微笑んだ 冷たい瞳が、なんだか物悲しいイメージの男だった 「痛い思いをしないなら、別にどこにいてもいいよ」 俺は首の後ろを掻いた 「ほぉ、これもまた意外な発言です。暴れて、泣きだして、『道元坂ぁ』と叫ぶかと思ったのに」 「貴方が梓さんみたいな人だったら、叫んでたかも。貴方からは憎しみや憎悪が感じられない。ただ、悲しいとか寂しいとか、そういった感情のオーラが感じられるから」 カイルさんが驚いた眼をした ふっと表情を緩めると、一歩二歩を前に足を踏み出し、俺のいる部屋に足を入れた 「面白い子ですね。敵地にいるのに、怯えないで、冷静に相手を見ているようです」 「冷静じゃ…ないけど。そりゃあ、帰っていいなら。帰りたいし、でもそうは行かないんだろ?」 「ええ。その通りです」 カイルさんの眉毛がぴくっと上下に動く 「なら、ここでどうやって過ごすか。そう考えるしかないじゃん」 「意外や意外。なかなか賢い子のようですね」 「学校には行ってないけど、馬鹿ではないと思う。成績は悪かった…けど」 俺の語尾が小さくなると、カイルさんがクスクスと笑った 「お茶にしましょうか。翔、この子を僕の部屋に案内して」 「え?」と、翔と呼ばれた額の傷男が驚いた表情になった 「トモキは、客人だ。僕に敵意を抱いていない。お茶くらい一緒にしても、道元坂に怒られることはないでしょう」 カイルさんがクスクスと笑い声をたてながら、部屋を出ていった 「気に入りましたよ、トモキ。君はともて面白い子だ」 廊下でそう呟いているのが、俺の耳に届いた いや…俺よりも面白いのはカイルさんのほうじゃないのか? 『人質』を『客人』と言う人は、なかなかいないと思うけど 「良かったな。カイル様に気に入られれば、ここでの怖い物はない」 翔さんが、優しく微笑んでくれる え? この人も…良い人なのか? 梓さんの組織の人はみんな極悪非道な奴らばかりで、蛍が一人で苦労しているのかと思ってたけど 違うのかな? よくわかんないや 俺、大丈夫だから 道元坂、無理すんなよ ライさんも、暴走しないで欲しい マジで、平気だから

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