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禁断の果実は甘い味2
「あら、バレちゃった。もう梓はいないんだから、そろそろいいんじゃないかと思って、ね。恵から連絡が来たら、この子に全てを話すチャンスだと思ったのよ」
「そう、だな。椿のもとで元気に育ったようだな。良かった」
私は手を伸ばすと、少女の頬に触れた
少女が、顔を真っ赤にすると私の腕を叩いて距離をあける
小走りで、椿の背後に隠れると恐る恐るこっちを見てきた
「さっきまでの威勢はどうした、優衣?」
「な…なんであたしの名前を知ってるのよっ」
知ってるさ
私の子どもなんだから
私はふっと口のはしを持ちあげて笑うと、椿の後ろに隠れている優衣を見つめた
「つ、つ、椿さんっ、この人…誰? なんであたしのことを知っているのよ」
「優衣が知りたがってた人よ…とでも言えばわかる? 時期が来たら、会わせるって前に言ったでしょ?」
「え? もしかして、あたしのお父さん?」
「そう。道元坂 恵。正真正銘の貴方の父親よ」
「あ…え、っと、じゃあ、お母さんは?」
優衣の質問に椿の眉がぴくっと動き、動揺の色が見えた
「優衣の母は、6年前に死んだよ。いろいろあってね。君の母親となる女性とは離婚して、優衣を椿に預けていたんだ」
私は口を開き、説明をする
こんな形で、優衣に会えるとは…思っても見なかった
もう、死んだと思って生きてきた
「16年間も?」
「ああ。申し訳ない」
優衣が唇を噛み締めてから、私に背を向けると部屋を飛び出して行った
「優衣っ? ちょっと待ちなさい」
椿が、ぱっと振り返ると大きな声で呼びとめようとした
「椿、いいんだ。無理強いはしたくない。優衣から見れば16年間も子供を放っておいた最低な父親でしかないんだから。どんな理由があろうとも、育児を放棄したのは私だ」
「好きで離れたわけじゃないのに…辛いんじゃない?」
「生きているだけで、いいんだ。生きているだけで……それだけで」
私は言葉を詰まらせた
16年ぶりに見る優衣に、胸が苦しくなった
首が座って間もない優衣を、殺せと梓に言われた時は、地獄に突き落とされたかと思った
私が、女の子を欲しがっているなか、念願の女児が生まれた
それを知っていて梓が、「殺せ」と命令してきた
可愛がっている娘を殺せるはずもなく…
すでに、小森の家を出ていた椿に全てを託した
施設に預けるのでもいい
どこかの夫婦に、養子に出すのでも良い
なんでもいいから、あの子を梓の目の届かないところで生かしてくれと頼んだ
だから、生きているだけいいんだ
地球のどこかで、元気にしている…それだけで私は、他に望まない
優衣と、親子の関係を築けるとは思ってない
築けるなら、築きたいさ
だけどその資格を、私はもう持っていない
「いつ出発するの?」
「早ければ、早いほうがいい」
私の返事に、椿がコクンと頷いた
「わかったわ。優衣に至急、旅立ちの用意をさせる。私も用意をしてくるから、待ってて」
「ああ。悪いな」
「蛍君の生活がかかってるんでしょ? 私でどうにかできるなら、協力させてもらうわ。それに…過去は断ち切れないもの」
椿が、苦笑した
「ホントに悪い」
「恵はいつも、私に謝ってばかりね」
椿が肩をすくませる。
「確かに。ずっと謝ってばかりだな」
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