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初めて見る妹

ー蛍sideー  テーブルの目の前に座っている女をまじまじと見つめた。  親父から「カイルとの一件は無事、解決した」なんて連絡をもらっていたから。  てっきり親父と智紀が二人で帰ってくると思っていたのに。  いざ、親父が家に戻ってきたら、見たことも無い少女を連れて帰ってきやがった。  目が鋭くて嫌な感じしかしない女だけど。親父曰く、優衣らしい。 『優衣』とは俺の妹。  母親は親父が殺したと話していた。  ついさっき親父の告白では、母親の命令に背いて、母親の弟に赤ちゃんの優衣を託したとか。  死んだと思っていた妹が実は生きていて、いきなり目の前に「妹だ」と差し出されても……実感がわかない。  俺と瓜二つで、間違えようもない容姿だったなら、わかるけど。  母親の顔に似てるかもしれないと言われれば、「そうかも」と思えるが。  そっくりじゃないから、これもまたわからない。  だが、親父が己の娘だと言うのだから、俺の妹になるんだろうな。  今の俺には「優衣なんだ、ふーん」くらいにしか思えない。  愛情もなきゃ、愛着もない。可愛がってやろうって気にもなれない。  生きてて良かった、とか。俺の妹だから、大事にしなきゃとか。そんな感情なんて生まれてこない。 「で? 智紀はどうしたんです?」  莱耶が冷たい口調で、親父に質問する。 「ホテルにいる。しばらくそこで過ごしてもらうから……」と言いながら、親父がメモを渡した。 「では僕は、そちらに行きます」  メモ紙を荒々しく受け取ると、莱耶が玄関へと歩き出す。 「ちょ、ライさんっ」  俺は席を立つと、莱耶を追いかけた。 「ライさん、怒ってるの?」  ジャケットを羽織り、振り返ったライさんがぎろりと俺を睨みつけた。  朝方までの甘えてくれていた表情の欠片は、そこには存在しない。  まるで出逢ったばかりの頃のように、冷淡で心を閉ざしていた時のライさんだ。  数秒後、ライらんさが首を左右に振った。頭を切り替えようとしているみたいだ。 「ジュニアのせいじゃない。それはわかってる。けど……今はこの感情を抑えられない。恵のせいだ。だけど恵に責任を問うなんて出来ない。きっと恵にも、理由があろうだろうから。それでも僕は、すごく……。ものすごく恵を殺してやりたい」  莱耶が深呼吸をすると、俺の手を振り払った。 「しばらく恵にも、蛍にも会いたくない。それが僕の精一杯の心遣いだ」 「ライ」と俺の背後から声がして、俺は振り返った。  奥歯をぎゅっと噛み締めてから、親父が真っすぐに莱耶を見つめた。 「知っていたのか?」 「僕が何も知らないとでも?」 「ああ。知らないと思っていた。完璧に隠し切れていると思っていた」  親父たち。何の話をしているんだ? 「知った時は腸が煮え繰り返ったよ。もちろんね。殺してやろうとも考えたけど。僕にとって好条件の働き口だったから、恵を殺すのを我慢した。それもやっとの思いで思い留めたっていうのに」 「それはありがたい」 「僕たちは恵によって全てを失った。これ以上、智紀が何かを失うのなら、僕たちは恵たちの元を去る」 「……わかった」  親父が唇を舐めてから、小さく頷く。  一体、二人は何の話をしているんだよ。  莱耶の『全てを失った』ってどういうこと?  ガチャという音に、俺は玄関に視線をやると、すでに莱耶が家を出て行った後だった。 「ちょ…ライさん」 「蛍、追うな」 「でも。だって……」  俺はゆっくりと閉まっていく玄関のドアと、親父の暗く重苦しい表情を交互に見やった。  今、追いかけなくてどうすんだよ!  俺はたった今、ライさんに別れを叩きつけられたんだぞ?  俺のせいじゃなくて。親父のせいだけど、親父の責任じゃないっていう、わけのわからない理由で。 「ライは、智紀の警護に行っただけだ」 「でも俺たちの元を『去る』って言っていたじゃないか」  意味がわからない。一体、何が起きてるっていうんだよ。 「今は、まだ去らない。お前にはまだやるべきことが残ってるだろ? 梓の残した組織の後始末が……。中途半端にするな」  中途半端にするなって……急に、なんだよ。厳しくなりやがって。  意味がわかんねえ。  なんで莱耶があんなに不機嫌で、親父も苛ついてんだよ。  親父は俺に背を向けると、居間へと戻っていく。  優衣と何かを話しているようだ。  智紀がこの家に居なくて。代わりに妹らしい女の優衣が居て。  莱耶も、出て行ってしまった。  俺は俺で、母さんの残した組織の始末をしなくちゃで。……って、俺が戻ったらまたカイルに抱かれるってことはないのか?  いや。カイルとの一件は決着がついたって言ってたけど…。どう決着がついたのかなんて、俺、何も聞いてねえよ。  中途半端。ああ、そうだろうよ。  俺だけじゃねえ。全てにおいて、今この状態が中途半端だ。  ちくしょう!  親父め。わけのわけんねえ、女を連れて帰ってくんじゃねえよ。  今さら、俺に生ぬるい家族ごっこなんて出来ねえからな。 【誰があんたなんかとⅣ】完結 次ページからは、番外編をお送りします。

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