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第13話

公園を後にした石田は、三崎と鮫洲(さめず)が待つ社食を訪れていた。 「本当、すみません。こんな事になってしまって・・・・・・」 尾行の結果の顛末を詫びる石田の声は、心なしか沈んでいる。 「いや、良いって良いって、・・・・・・むしろ俺のせいだし」 「ホントにな。」 鮫洲と向かい合い、石田を隣に座らせた三崎は、呆れ顔で同意の言葉を返した。 「いやだって気になって・・・・・・」 「だからって後つけてんの分かってて電話するか普通」 「うぅ・・・・・・」 石田が臣人(おみと)を尾行中に鳴り出した着信音。 それは鮫洲からのものだった。 「でも、おかげで(じか)に話すことができましたし。明日約束もいただけました」 うなだれる鮫洲をはげますように、石田は微笑む。 「そ、そうだよな!明日、久々に河鹿(かしか)さんと話せる・・・・・・!」 「くれぐれも、昨日話したこと忘れないで下さいね」 「・・・・・・ん?」 何のことだと首を傾げる鮫洲に、突っ込むのを放棄した三崎が、昼食から目も離さずに指摘した。 「焦って告白すんなってやつだよ」 「あ、ああ!それか!そんな事するわけないじゃん!」 勢い良く言い切る鮫洲に、二人から呆れと心配が入り混じった視線が注がれる。 「ま、いいけど。(かおる)、お前飯は?」 鮫洲との会話を適当に切り上げて、三崎は社食を訪れてから何も買わずに報告に来た石田に尋ねた。 「まだですけど・・・・・・もうあんまり時間無いから・・・・・・」 「軽い物でもいいから何か腹に入れろ」 「そうですね・・・・・・。じゃあちょっとパンでも買ってきます」 そう言って石田が席を離れたのを確認し、三崎は鮫洲に向かって右手を差し出した。 「ケータイ」 「?」 「貸せよ」 「え、何で・・・・・・っあ!」 三崎からの突然の強要に意を唱えようとしたが、向かいから伸びてきた手はそれより早く、鮫洲の手からスマホを奪った。 三崎の親指が滑らかに液晶を撫でる。 「ちょ、何してんだよ!」 「芳の番号消去してんの」 「なっ!」 「お前の事だからあいつの優しさにつけ込んでいいように使う気だろ」 「そんな事しねぇよ」 「お前の腹黒さは俺が一番良く知ってる」 番号の消去を終えたスマホを鮫洲に付き返し、その目を鋭く睨み付ける。 「河鹿さんには興味無いからどうでも良いけど、芳に迷惑かけんなよ」 三崎の言葉に、鮫洲は面白くなさそうに答える。 「そういう過保護なの、よくないと思うよ」 「あいつは俺が一生面倒見るからいいんだよ」 「どうだか」 「・・・・・・」 「すみませんっ、お待たせしました。お茶入れてたら遅くなっちゃって・・・・・・」 にらみ合う二人の険悪な空気は、石田の声で霧散する。 「待ってないし」 「わーいお茶ありがとう!」 不機嫌そうにそっぽを向く三崎を不思議に思いつつ、石田は二人に茶を渡し、席についた。 翌日―― 12時を少しまわった頃、臣人は昨日石田と約束した通り、工場内の自分の作業ブースで鮫洲を待っていた。 休憩のときにだけ使うパイプ椅子に腰掛け、所在無げに弁当を包むハンカチを弄る。 (いっそ、来なければ良いのに・・・・・・) ただ待っているだけだと気が滅入りそうで、臣人は給湯室へ向かおうと席を立った。 そのとき。 「河鹿さんっ!すみませんお待たせしましたっ!!」 まだ臣人の作業ブースまで5メートルは離れているというのに、大声で話しかけてくる鮫洲の姿を確認し、臣人はため息をついた。 「良かった。いなかったらどうしようかと・・・・・・!」 走ってきたのだろう。鮫洲の息は荒く、額はわずかに汗ばんでいる。 「お茶入れてきますので、座っててください」 臣人がもう一つパイプ椅子を取り出し、差し出すと、鮫洲はそれだけで嬉しそうに笑った。 どうやらあの夜のことを相当気に病んでいたらしい。 少しだけ胸が痛んだ。 給湯室から戻ると、鮫洲は立ち上がって臣人を出迎えた。 「どうぞ、座ってください・・・・・・」 お茶を差し出しながら座るように促す。 しかし、お茶は受け取ったものの、鮫洲に座る気配は無い。 「あの・・・・・・」 「すみませんでした・・・・・・っ」 臣人が再び声をかけようとしたとき、鮫洲が勢い良く頭を下げた。 反動で、手に持ったお茶に波が立ち、わずかに跳ねる。 (熱くないのかな) そんな疑問を抱きつつ、臣人はお茶を持つ鮫洲の手を見つめる。 「河鹿さんの部屋のもの勝手に弄って、本当、申し訳ないことをしたと思っています。許されるとは思っていないけど・・・・・・」 「あ、あれはもう、良いんです」 「へ?」 謝罪の途中でさえぎられ、あっさりと許された鮫洲は、ぽかんと口を開けたまま臣人を見つめる。 「アップデート後も、恐れていたような挙動はしなかったですし・・・・・・・」 確かに以前よりは会話の受け答えもスムーズになったし、動作のパターンも増えた。 だが臣人が思っていたより、ロクの機械っぽさは失われていない。 体が旧式のままという事もあるが、人間にはまだ遠い印象を受けた。 鮫洲は臣人の言葉が脳に届いていないのか、しばらく黙ったままだったが、ややあって、ぽつりと小さく言葉を紡ぐ。 「許してもらえる・・・・・・んですか」 「はい」 小さく簡潔に、だが確実に、臣人は肯定した。 とたん、鮫洲の顔が喜色にあふれる。 「良かった・・・・・・!じゃあこれからまた毎日一緒にお昼過ごせるんですね!」 「え、毎日はちょっと・・・・・・」 「え・・・・・・」 すぐさま返された否定の言葉に、鮫洲はあからさまに不安な表情を浮かべる。 「週に、三日くらいなら・・・・・・」 「はい!よろしくお願いします!」 鮫洲の大声で、工場内の注目を集めてしまい、臣人は軽々と許してしまったことを少しだけ後悔した――

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