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Ⅰ 愛の巣で朝食を 21
「わわっ」
悲鳴がついて出たのは、ハルオミさんがッ
「初々しいね……やはり君と肌を重ねる時はいつも、初夜のようだよ」
だって!
ハルオミさんがうなじに顔をうずめるから。
唇が押しつけられて……
キス、だよな……
唇の触れた箇所が、じんじん熱い。
「汗ばんでいるね」
ペロリ
ハルオミさんが首筋舐めたーッ
鼓動が胸を破って、飛び出しそうだ。
ドキンドキンッ、ドキンドキンッ
動悸が止まらない。
「初々しい新妻には、あれをしてほしいな」
「あれって?」
なんだろう?
……正直なところ、俺はハルオミさんの妻としての務めを果たせているのか疑問だ。
料理は下手くそだ。
Ω解放軍の統帥だった俺は、料理なんてした事がない。
軍を率いて戦争に勝利する事が最優先だったから、料理やそのほか身のまわりの雑事は全部、部下がやってくれていた。
Ω解放軍の皆に任せっ放しだったんだ。
料理はできないし、洗濯や掃除だって得意とは言えない。
ハルオミさんは日本国 内閣副総理大臣だから、政治家の妻として為すべき事は多い。
けれども有能な政治家である夫は、家庭に仕事を持ち込まない。それどころか、俺の負担を最小限に軽減してくれている。
戦争の戦略を練るのは得意だが、政治の策略は全く別物だ。
ましてや夫は、思考を読み、思考を巧みに操るシュヴァルツ カイザーである。
俺の頭脳がハルオミさんの政治に役立った事は、今のところ一度もない。
こんなふうで、俺はハルオミさんの妻だと言えるのだろうか……
いや、気落ちしている暇があったら、努力しなければ。
ハルオミさんの理想の妻にならないとな!
ハルオミさんのしてほしい『あれ』ができれば、理想の妻に一歩近づくぞ。
「ハルオミさん。俺は、なにをすればいいんだ?」
「新妻といったら、あれに決まってるよ」
なんだろう?
「……お帰りなさい。あ・な・た♥」
熱っぽい吐息が耳朶に吹きかかった。
まさかっ
まさかっ
それってー!!
「ご飯にする?お風呂にする?……それとも」
「キャアァァァーッ!!」
言えない。
俺は、シルバーリベリオンだ。
Ω解放軍の頂きに立つ統帥だ。
Ωの頂点に君臨する俺が……『それとも……~~~』なんてッ
自らの口で「俺を食べてください」なんて、恥ずかしいおねだり……
できる訳がない!
「ハルオミさんっ、それだけはっ」
ほかの事なら、なんでもする。だからっ
「その三択だけはッ」
俺は、シルバーリベリオン。Ωの頂きに立つ統帥なんだ。
忖度 してくれ。
「私は日本国 内閣副総理大臣だ。私には、日本の伝統を守り継承する義務がある。妻である君にも協力してもらうよ」
「しかしっ」
「大丈夫。君ならできる」
チュプリ……と。耳たぶをかじった唇が、熱い吐息を奏でる。
「帰宅した私を出迎えた君は、鞄を受け取って言うんだよ」
「でも……」
「ぶっつけ本番は大変だね。今から練習しようか」
「えーッ」
練習って、どういう事だッ
「……ガチャン。ただいまー」
ハルオミさん、やる気になってる。
練習モードに入ってしまった。
「ただいまー」
ハルオミさんに後ろ抱きにされて、ハルオミさんの体の上でベッドに仰向け……脚を絡められているから、大股開きを閉じられない。
こんな恥ずかしい体勢のままで、新婚さんの日本の伝統を稽古するのかっ?
「ただいまー。……おかしいな、ナツキはいないのかな?」
「フヒンっ」
ハルオミさんが、いきり立つ剛直で会陰をこすってくるぅ~
「声が聞こえたようだが?」
「……お、お帰りなさーい♥」
「あぁ、ナツキ。ただいま♥」
……クッ。シルバーリベリオンたる、この俺が。
不覚だ。
新婚さんの日本の伝統を、大股開きして稽古に勤 しむなんて。
「鞄を持ってくれるのかい。すまないね。はい、鞄だよ」
うっ、鞄を渡されてしまった。
「………」
「………」
「………」
俺のセリフだ。
ハルオミさんが、背中で俺のセリフ待ちしてる。
「あ、あのっ」
「なんだい?(♥)」
「ハルオミ…さんっ」
がんばれ!
腹をくくるんだ、俺!
「ご飯にする?お風呂にする?……それとも…~~~」
言えないッ
俺は、Ω解放軍 統帥だ。
こんな恥ずかしいセリフ。いくら新婚さんの日本の伝統だからといって、練習でも言えないッ!
「おやおや、困った妻だね。セリフを忘れてしまったのかい?」
「……うん。ごめん、ハルオミさん」
「そこはね……」
クスリ
耳のひだに吹きかかった吐息が微笑んだ。
「『ご飯にする?お風呂にする?……それとも、ム・ス・コ♥』だよ♪」
………………
………………
………………
「はいぃ~??」
……『ア・タ・シ♥』じゃないのかァッ!?
息子はいないぞ。
俺とハルオミさんとの間に、子供はいない。
息子って、誰だ?
ハルオミさんの隠し子か?
「『もちろん、ム・ス・コだよ♥』と応えて、君の可愛いSサイズのカチカチ氷バナナを、皮を剥いて食べてあげるよ」
………可愛いSサイズ
………カチカチ氷バナナ
………皮を剥く
『息子』って、まさか~♠!!
「プルンプルン振って、私を誘惑する君のムスコに玄関でしゃぶりつきたいよ!」
『息子』って、ムスコだァァァァーッ!!
「イヤァァァーッ!!」
俺、ノーパンなのかッ
服はっ、服はどうしたっ?
「新妻の君は一糸まとわぬ生まれたままの無垢な姿で、夫をお出迎えだよ」
「ウギャアァァァ~~ッ♠」
すっぽんぽんかーッ♠♠♠
「これこそ、新婚さんの由緒正しき日本の伝統だよ!」
「変態だわーッ!!」
プシュウゥゥーッ
我が夫よ、鉄拳の制裁だ。
脳天から湯気出して寝とれッ!!
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