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Ⅱ 瞳の蒼⑱

『どうですか?南国キャビンは』 そうか。 お前達が飾りつけてくれたんだな。 「すごく綺麗で気に入ったよ。ありがとう」 『ウオォォオオーッ!!』 『シキ夫人が喜んでくれたぞー!!』 『我らが聖女様、バンザーイ!!』 プルっ 怒るな、俺よ…… こいつらに悪気はないんだ。 例え俺を、聖女呼ばわりしても。 握りしめた拳を寛大な心で開くんだ。 『オルレアンの乙女、バンザーイ!!』 「誰が乙女だァーッ!!」 『……そうか』 そうだぞ、通信室諸君。 やっと気づいたか。俺は雄!乙女ではない。 『シキ夫人は乙女じゃないぞ。副総理と結婚されたんだ』 ……ん? 乙女と結婚と、どんな関係があるんだ? 『そうだぞ!シキ夫人は非処女だ』 なななっ?! 『新婚さんの副総理とシキ夫人が、夜の営みを我慢できる筈ないじゃないかー!!』 「ナァァァーッ」 なんて事を言うんだ、お前達はーッ 『早く可愛いお子さん産んでくださいね!!』 「はっ!」 ぱくぱくぱく お口が金魚さんだ。 そそそっ、それは、そのっ………………いつか、そんな日が来るかも知れないけど~ ………………俺が、ハルオミさんの子供を産む…なんて日が……… 『子作りバンザーイ!!』 キャアァァァ~~っ まだ早いからーッ! 「……君達は思慮に欠けるね」 声は頭上から降ってきた。 ハルオミさん…… 庇ってくれるのか。 俺達は夫婦で、俺の夫なんだね。 でも。あいつらも悪気があっての事じゃないから…… 「夜だけじゃないよ」 「………………はい~?」 「新婚さんの私達は、朝までアッツアツホヤホヤで繋がっているからね!」 「ハルオミさんッ」 「なにで繋がってるか……って?」 「言うな、絶対言うなーッ!」 ………心だ。 俺達夫婦は心で繋がってるんだ。 そうだよね、ハルオミさん。 「もちろん私達夫婦を繋ぐのは、私の股ぐらに生えている雄の生殖器だよ!」 「ギャアアァァァ~~♠」 「従って、朝まで仲良し夫婦の私達に『夜の営み』という言葉は間違いだ」 「………」 「休みの日は、昼間も『仲良し』だよ♥」 ……………………終わった。 俺、終わった……… とうとう、夜の営み……否。夫婦の営みの実情を外部に知られてしまった。 「私は日本国副総理だ。公人として、包み隠さず報告する必要があるんだよ」 「違う!」 プライバシーの侵害だ。 「……おっと」 怒りの鉄槌は呆気なく、ハルオミさんの掌で受け止められてしまった。 文民のクセに運動神経いいな♠ 「味方は多いに越した事ないじゃないか」 蒼い瞳の奥が微笑んだ。 こういう面持ちをするハルオミさんを知っている。 なにかを企んでいる時の顔だ。 「彼らは味方だよ。ハラダ一等兵も含めてね」 知ってる。 ハラダ一等兵が政府専用機を整備してくれて、通信室の面々がキャビンを花でかざってくれたんだ。 親身になって思いやり、心から祝ってくれる彼らは、かつての戦争を戦い抜き、生き抜いた戦友で、かけがえのない仲間だ。 「育児にも、きっと協力してくれるよ」 ハルオミさんの企てって…… ぱちくりと見開いた瞳に、紺碧の眼差しが落ちた。 「私は卑怯だね。こうやって、君を追い詰めるんだ」 逞しい腕が俺を包んでいる。 「君に、私の子供を産んでほしい」

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