57 / 292

Ⅱ 瞳の蒼⑲

「………ダメ…だ」 俺はハルオミさんの妻としての役目を果たせていない。 料理は上手くできない。 家事はハルオミさんに手伝ってもらっている。 家の中でもたくさん助けられてる俺は、外でも役に立たない。 副総理のハルオミさんを支えているとも、到底言い難い状況だ。 ハルオミさんの妻になれていない俺が、子育てなんてできないよ…… 「無理強いさせてしまったね」 ポンポンっ 大きな掌が降ってきた。 「もう少しだけ待つ」 ハルオミさん! もう少しって、いつまでなんだ。 その期限までに俺がちゃんと妻らしくならないと、俺は…… (ハルオミさんに見限られてしまう) 妻の役割ができない俺なんかよりも、家事もできて美味しいご飯も作れる有能なΩがいいに決まってる。 どうしよう……俺…… 頑張るから。……って、伝えないと。 それとも子供を産む。……って言った方がいいのか。 ハルオミさんは子供が欲しいから、その方が喜ぶだろうか。 俺を許してくれるだろうか…… 「あのっ」 呆気なく。俺の髪から、あなたの手が離れていく。 こんな事をしている間にも、ハルオミさんの与えてくれた『もう少し』の期限が、刻一刻過ぎている。 「どうかしたかい?」 せっかく、ハルオミさんが聞き返してくれたのに。 「……なんでもないよ」 緩く首を振る事しかできなかった。 怖いんだ…… 俺は弱くて……弱虫で。 ハルオミさんの本音が聞き出せない。 ほんとうはもう、俺の事なんか嫌気が差して。別れたいって思っていたら、どうしよう。 背中の体温が近くて……遠い。 「ナツキ?」 「ちょっと、おトイレ」 「もうすぐ出発だから、早く戻ってくるんだよ」 「……はい」

ともだちにシェアしよう!