64 / 292
Ⅱ 瞳の蒼 26
きっと……
ハルオミさんに求められいるのは、幸せな事なんだね。
でも、俺は……
妻として半人前
不安なんだ。
妻の役割も果たせずに、母になれるのか……
小さい頃の記憶がなくて。
俺の中には、父も母も……両親の思い出がない。
幼い頃、ハルオミさんとユキトと一緒に暮らしていたらしいんだけど、覚えていない。
兄弟みたいに遊んでたんだって。
ユキトが教えてくれたけど、思い出せないんだ。
……兄弟の記憶も俺にはない。
もし、子供が生まれたら。どんなふうに接したらいいのだろう。
そこからもう、分からないんだ。
こんな俺が、子を産んで育てるなんてできる訳ないよ。
だったら、せめて。
一人前の妻にならなくちゃ。
あなたが安心して、満足してもらえるような妻に……
ハルオミさん………
「俺っ」
ワアッ!
体が引っ張られた。後ろから★
「ナツキは俺の子供を産むんだよ!」
「ユキトっ」
「約束したよね、ナツキ」
なに言ってッ!
「そうだろ、ナツキ」
「あの約束はっ」
αとΩの戦争中だ。
ハルオミさんにユキトから引き離されて、奪われるように結婚したから。
だから!
ハルオミさんの妻として、一生添い遂げるのを決めかねていた時に。
「お前の子を産む約束は」
「約束だろ、ナツキ」
「……君。第二夫と、そんな約束してたのかい?」
「ヒィっ」
凍てついている。
サファイアの眼光が氷結している。
「私の子供は産まないけれど、第二夫の子供は産みたい。……こういう事でいいかな」
「そういう事です」
ユキト!お前が答えるな!
「俺は、αの子供は産まないんだァーッ!」
「………なぜ?」
「戦争は終わったんだよ」
うっ。
この言い訳は、αとΩが対立していてこそ成立するもの。終戦した今、子供を産まない理由にならないんだった。
……『αの子供は産みません。なぜなら、βの子供を産むからです』
「ナツキ!」
「本当なのか!」
「違う!」
声は俺じゃない。
誰だ?
βの子供を………って、まさかァァーッ★
ともだちにシェアしよう!