65 / 292
Ⅱ 瞳の蒼 27
どこにいる?
『将来産まれる子供の父親はβです』
ハルオミさん、俺を睨むな。
ユキトも背後で俺を睨むな。
視線を感じているぞ。
「冷静になれ。この声は俺じゃない」
「確かにね」
「どういう事だ」
声は聞こえる。しかし、姿が見えない。
ユキトのように機内に潜んでいる……というのでもなさそうだ。気配が感じられない。
じゃあ、声はどこから?
「無線だ」
ハッとして、切れ長の双眸を見開いた。
「通信室との通信がまだ繋がっている」
サファイアの視線が隣のキャビンに流れる。
通信室の無線が室内スピーカーで拡声されている。
「行きましょう」
「待て」
「待てないよ、ナツキ」
待たなきゃダメだ。
だって!
「俺を下ろせーっ!」
ユキトの号令で、ハルオミさんが隣室に動く……けれど。
俺を抱っこしたままなんだー!!
「ハルオミさん、俺を下ろして」
「どうしてだい?」
どうして……って。
下ろした方が歩き易いだろ。
更に謎なのはユキトだ。
「なぜ脚を?」
抱えてるんだ。
ハルオミさんなら俺一人くらい楽々と抱っこできるから、脚を持つ必要ないぞ。
「ナツキに触れていたいよ」
そんな理由~★
「私もだよ」
ハルオミさんーっ
お前達!兄弟して、なにを張り合ってるんだァーッ!
「下ろせー」
一人で歩ける。
「子供じゃないんだー」
「分かってる」
「今更だよ、ナツキ」
ユキト?
ハルオミさん?
分かってるのなら、なぜ下ろしてくれないんだ。
ブラックダイヤの漆黒と、サファイアの藍が俺を挟み討つ。
お前は………
君は………
俺の………
私の………
「「妻だ♥」だよ♥」!!!
そんな理由で下ろしてもらえないのかァァーッ
「これ以上の理由はないだろう。片時も君を離したくないんだ」
真っ直ぐな藍色の深さに、瞬きさえ忘れてしまう。
「譲らないよ。譲れない想いなんだ。これからも、ずっとね」
ブラックダイヤの揺るぎない意思に見つめられて、鼓動が震える。
ドキドキして。
ドキンッ、ドキンッ!
心音が胸の中で響いている。
全身が熱い。
どうしよう……
さっきまで怒ってたのに、急に恥ずかしくなってしまった。
二人の夫に想われて……
「……俺、幸せかも」
「もっと幸せにしてあげるよ」
「ナツキといると、俺も幸せだよ」
俺も、いっぱい幸せ。
……『そんな顔すると俺、妬いちゃいますよ』
通信ランプが光った。
『統帥の幸せ、独占したいな』
モニターの中で、琥珀の双玉が不敵に微笑んでいる。
ともだちにシェアしよう!