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Ⅱ 瞳の蒼 28

通信ランプが光っている。 「アキヒト!!」 やっぱり、お前だったのか。 『愛人、統帥から手を離せ。出発できないだろう』 ……アキヒトがハネムーンに協力的だ。 妨害しないのか? 否、協力してくれた方が有難いのだが。ちょっと意外。 「愛人!お前も愛人だろう!」 『ハネムーンにも行けない愛人と一緒にするな。愛人』 愛人同士の不毛な争いが始まってしまった。 ユキトとアキヒト 第二夫と第三夫は、とにかく仲が悪い。 ユキトはα-大日本防衛軍の軍人 アキヒトはΩ解放軍で俺の親衛隊隊長だった。 今もアキヒトは俺を守る騎士(ナイト)である。 だから……なのか。 二人はライバルだ。 夫となった今でも互いを「愛人」と呼び合って、なにかと張り合っている。 どちらも法律上は『愛人』なんだけど。二人に愛人の自覚はない。似た者同士なんだ。 「愛人。お前だって、ハネムーンに行けない愛人だろう!」 『俺は統帥の騎士。統帥を守る(つるぎ)だ』 「だから、どうした」 『騎士が主君の元を離れる訳ないだろう』 ブラックダイヤの目の端が、スッと吊り上がった。フゥと、顎が持ち上がる。 出た! ユキトの鬼の首を獲った顔だ。 「既に離れているじゃないか。もう心が離れているんだよ」 「ユキトっ」 アキヒトを置いてハネムーンに行こうとしたけれど。 それは、ハルオミさんとのハネムーンだからであって! 言い過ぎだ。 ……しかし。 クッ……と。 唇を上げたのはアキヒトだった。 『分かってないな、愛人は』 余裕だ…… 頬杖をついて。 アキヒトが余裕の笑みを浮かべている。 『統帥が、俺を奪いに来るんだよ』 …………………………え。 政府専用機が、アキヒトを迎えに行く予定はないが…… 『俺、待ってます。早く来てくださいね』 「あのっ」 待ってもらっても、行く予定ないから。 「俺達は今からハネムーンに……」 『俺達のハネムーンですね♪』 はいぃ~?? 『公務の後は、二人きりの熱い夜を過ごしましょう』 幾らなんでも片道9時間。 フィジ=ネイヴィブルから日本へ、とんぼ返りは無理だ。 「俺達はフィジ=ネイヴィブルに滞在するから」 『待ってます』 琥珀の瞳が悪戯に微笑んでいる。 頬杖を解いた手が指差したのは、通信ランプだ。 ランプを確認しろ……という事か? 「アアァァァーッ」 ランプが示している、発信源は…… 国外 まさか、この通信は…… 『統帥に奪われる立場というのも刺激的です♪』 アキヒト! 『愛の逃避行で、悦楽に堕ちましょう』 ギャー!!お前、まさかッ……… 「フィジ=ネイヴィブルにいるのか!」 『俺達のハネムーンですから♪』 違う! ハルオミさんとのハネムーンだッ ゾクリ 言い様のない寒気が走ったのは、気のせいじゃない。 「…………君は、ハネムーンで愛人と密会するつもりだったのかい?」 蒼い双眼が水底まで凍りついている。 ハルオミさん!! 「誤解だァァーッ」

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