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Ⅱ 瞳の蒼 31

斜に伏せた藍の眼差し。 そんなっ。 ……「行きたくない」なんて嘘だよね。 行かない。……なんて言わないよね。 今朝のハネムーンのサプライズ、すごく嬉しかったんだ! ハルオミさんの心からのプレゼントなんだもん。 受け取りたい。 今も、とっても楽しみなんだ。 行きたいよ! ハネムーンに行きたい! 二人きりの旅行じゃないけど。 公務でもあるけれど。 でも、それでも。いっぱい二人きりになれると思う。 いつもよりも……ハルオミさんに甘えたい。 いつもだって、ハルオミさんに甘えてるけど。もっと…… ハルオミさんと、そのっ……べったりイチャイチャしたいな。 俺達、新婚なんだもん。 だけど。 ハルオミさんは、そういうのは好きじゃないんだろうか。 ハネムーン……といったって、慰安旅行のつもりの計画だったらどうしよう。 俺だけ舞い上がってる。 ハルオミさんは日々の公務で忙しいから、たまには骨休めしたいのかな…… 「ハネムーンには、もう行かない」 ユキトとアキヒトと俺の三人の面倒をみなくちゃならない、ゆっくりできない旅行なんて、ハルオミさんは興味を失っちゃったのかな…… 行きたい……けど。 俺の気持ちを押し付けてはダメだ…… 「………なんて言うと思うかい?」 「ハルオミ…さん?」 「行きたくないなんて、思う訳ないよ」 「でも、さっき」 行きたくない。……って、ハルオミさんが言ったのは、なぜなんだ? 「今更外遊をキャンセルしたら、外交問題に発展しかねない。……なんて理由ではないよ。 ハネムーンの計画をした時から、今日をどんなに待ちわびていた事か。 君のその顔を見たかったんだ」 ……どういう事? 「『ハネムーンをやめる』と言い出したら、君はぱっちり目を見開いて、次の瞬間これ以上ないくらいのガッカリした顔を見せてくれた。……その顔を見て安心したよ」 私はね…… 「私だけ舞い上がっているのではないかと心配だったんだ」 「そんな事ない!」 俺だって。とっても楽しみで。 「行かないなんて、絶対嫌だ!」 言ってしまった後で、ハッとして口を閉じた。 幾らなんでも子供っぽすぎだ。 駄々をこねているみたいで。 案の定。プって、ハルオミさんが噴き出してしまって……恥ずかしい。 穴があったら入りたいよぅ~ 「いけないね。ちゃんと顔を上げるんだよ」 片方の腕で抱き寄せられたまま、右の人差し指がクイッと顎をすくった。 「恥ずかしがる君も私の物だ」 間近に迫る瞳の蒼が俺を映している。 俺を閉じ込めている。 ハルオミさんに俺は囚われている…… 「困った顔も、拗ねた顔も、真っ赤に頬を染めた顔も。全部、私の物にしたくなってしまうよ。私は欲張りなのかな?」 凪色の双玉が奏でる言葉の一つ一つに、トクン、トクンと鼓動が高鳴る。 心臓がハルオミさんで弾けてしまいそうだ。 こんな時、いつも黙って俺に答えを求めるあなたは意地悪だ。 俺の答えなんて、とっくに気づいているクセに。 あなたは、シュヴァルツ カイザーなんだから。 「そんなこと……ないよ」 だって。 「俺は妻だから。……自分の物にしたいって言われると……嬉しくなる」 キャー、言っちゃった!! どうしようっ。まともにハルオミさんの顔を見られない。 サファイアの奥、蒼い水底がキラキラ満面の笑みを湛えている。 俺っ、夫をすごく甘やかしちゃってませんかーっ??

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