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Ⅱ 瞳の蒼 32
恥ずかしい……
こんな事言ってしまった後は、どんな顔してハルオミさんを見ればいいんだろう。
「言っただろう。君の表情 は全部、私の物だ」
ふわり……
大きな掌が舞い降りた。
「熱いね」
言わないでくれ。
そんな事言われたら、余計に顔が火照ってしまう。
「どんな君も私の物にしたくなるよ」
髪を撫でた手が、頬を包んでいる。
「君も……今の私を、君の物にしたいって。思わないかい?」
あっ……と、思わず声を上げてしまった。
優しげでいて、ちょっぴり悪戯な声に、ドキンッ
鼓動が波打つ。
ハルオミさん……どんな顔で、俺を見つめているんだろう。
見てみたい。
ハルオミさんの表情
ハルオミさんの目
どんなふうに、俺を映してくれているのだろう……
持ち上げた瞳は、サファイアの中に囚われてしまう。
ハルオミさんの甘い罠。
「妻の特権だよ」
穏やかでいて、奥に雄の色香を潜めた藍の双眸が、俺を捕らえて離さない。
「君に甘やかされた私は、きっと緩んだ顔をしてしまってるのだろうね。……こんな私は嫌いかい?」
「そんな事ない!」
俺の言葉で微笑んでくれるあなたを……
「嫌いになる訳ないじゃないか」
俺は……
「どんなハルオミさんも大好きで、俺を見つめてくれているハルオミさんの瞳が優しくて……いま俺が見ているハルオミさんも、かっこいい…………って思う」
なんて語彙力がないんだ。
もっと、もっと伝えたいのに。
あなたが大好きな事。
あなたの顔、もっと緩ませてみたいな。
それでも、あなたがかっこいい……って感じてしまう。
いわゆる、そのっ
「メロメロってやつで……」
ほんとに語彙力ない。
とうとう死語まで言っちゃった。
ハルオミさん、呆れてないかな。
少し伏せて、もう一度上げた瞼の裏を、あなたの蒼を溶かした透明な色彩が射した。
「あんまり夫を甘やかしてはいけないよ」
ふわり……
羽のように……
柔らかに緩んだ唇が、耳たぶを食む。
鼓膜を撫でた熱い吐息が、首筋を這った。
「君をもっと甘やかしたくなってしまうよ」
声の温もりに蕩けてしまう。
熱い体温ごと、逞しい腕が俺の体を抱きしめる。
きっと……
蒼い眼差しの端に、俺を映しているんだ。
真っ赤な俺の顔も、頬も、潤んだ瞳も。
俺の相貌 はハルオミさんの物だから。
どうしよう。
大好きで仕方ない気持ちが抑えられない。
「……顔に出ているよ」
振り仰いだ瞳が、藍色の眼差しに包容される。
「君の気持ちも私の物だよ」
額にキスを落とされて、心臓がキュンっと鳴いた。
「……もう少しだけ、君とこうしていたい」
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