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Ⅱ 瞳の蒼 36
上半身はハルオミさんに抱きしめられて、下半身をユキトに引っ張られている。
俺の意思じゃ、どうもできない。
誰か、この二人を止めてくれ!!
「止められないよ!」
「譲らない!」
お前達兄弟は張り合うところを間違えている!
ユキト。そもそも、このタイミングで介入するかっ?
………あれ?
(俺………)
胸の中のわだかまりが消えている。泡が溶けるみたいに……
『いつも』に戻ってる。
何気ない、日常の時間
怒って……
そして、心の中で微笑んでいる。
俺、ユキトとハルオミさんの間で。
二人に挟まれて。
さっきまで泣きそうだった俺が……
笑ってる。
ユキトが空気読んだ?
もしかして、お前が戻してくれたのか。
普段の日常に。
こう見えて、ユキトは聡 いところがある。
心の機微を察してくれたのか……
ありがとう、ユキト。
ハルオミさんと夫婦であるのはもちろんの事、ユキトとも夫婦なんだって実感する。
夫が、もう一人の夫と俺の仲を取り持ってくれるなんて。お前は器が大きいよ。
「……あ、ナツキのお尻」
「は?」
なに言い出すんだっ。せっかくお前の事、心の中で褒めていたのに。
………………
………………
………………★!!
「ギャーッ!!」
お尻が見えているッ
俺、彼シャツだったんだ★
ハルオミさんに促されるままに乗ったから、着替えてない。
「ユキト、離せっ」
「嫌だよ。兄上に抱きしめられるナツキを見たくない」
「空気読むのは、もういいから!」
「……空気?なんの事?」
お前…………
なにも考えなしに、俺を引っ張ってただけかァァァーッ!!
「ユキトのド天然~~!!」
脱げてしまうー♠
「ハルオミさんっ」
腕を伸ばそうにも、上半身は抱えられているから腰まで届かない。
ハルオミさん、俺を抱き寄せる腕を緩めてくれ。
「安心するがいいよ」
……と。耳元で囁いた声とは裏腹に、腕の力が緩む気配はない。
なぜだ?
このままでは本当に脱がされてしまう。
「ちゃんと用意しているからね」
ハルオミさん、余裕の笑み。
どうして、今ここで微笑みを浮かべられるッ
………悪い顔、してる~
我が夫ながら。
口許を上げた微笑は悪人面だ……
こんな時、こんな表情をするハルオミさんは、悪い事しか考えていない。
俺にとって、容易に予想がつく悪い展開になるんだ。
「君の勝負パンツは、私の『ハルオミ★コレクション』と一緒に収納しているよ!
じゃあ、はきかえようか!」
「ちがーうッ!!」
勝負パンツ?
ハルオミ★コレクション?
なんの話だ。
………………ハルオミ★コレクション
とっても気になる。
気になって仕方がない。
だが!
聞いてはダメだ。
聞いたが最後、とんでもなく卑猥な事になる。ハルオミさんだけに……絶対。
………うっ
ハルオミさんと目が合ってしまった。
………………聞いて欲しそうにしている。
ダメだ、ダメ!
絶対聞かない。
うぅ~。雨の降る街の片隅で、ダンボールに入った子猫の目で俺を見ないで~~
「あの………………ハルオミ★コレクションって?………」
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