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Ⅲ Attention, please!⑦

あたたかくて、湿った感触があてがわれている。 呼吸すら吸われて、息が止まる。 ……唇が塞がれている。 なんで? 薄く開いた瞼に、蒼い光が飛び込んだ。 光は応えない。 ただただ艶かしい口が角度を変えながら、舌が口内を這いずり回る。 唾液が垂れた。 上手く紡げなくて、口のまわりがベチョベチョだ。 俺……キスが下手くそ。 頭の芯がぼぅ……として、俺だけ気持ち良くなっている。 舌が絡み合う。 舌が追ってくる。 逃げても、逃げても、絡め取られる。 俺から突っつくと逃げていく。 追うのを諦めると、途端に吸われるんだ。 呼吸の奥まで。 息も唾液も、飲み込む事を許さない。 ハルオミさん…… あなたに翻弄されている。 ねぇ?俺はあなたに、なにを伝えようとしていたの?…… 思い出せないよ。 口づけが気持ち良すぎて。 苦しいくらいに、気持ち良くて……切ない。 胸の隅っこが、キュン。……と鳴くんだ。 あなたに、伝えなければならない事があった筈なのに。 言葉を奪われた唇から、思考が蕩けていく。 思考を読み、思考を操るシュヴァルツ カイザーのあなたが、俺の思考を溶かす。 なにも考えられなくなる口づけで、俺をとろかしてしまったら……あなたは、俺からなにを読むの? 「なにも要らないさ」 それって、どういう? 尋ねたいのに、言葉にならない。舌が孤独で麻痺してしまったみたいに、まだあなたを求めている。 口の中に帰ってきて欲しい。 あなたが足りなくて、あなたを求めている。 あなたを、求めて? 俺は、あなたを求めて……… 伝えるべき気持ちが、春の空の白い綿毛のように飛び立った。 綿毛があなたを探している。 降り立つ場所を……求めている。 この気持ちを、あなたに……… 「男はね、臆病なんだよ」 口角に指が触れた。 そこは、飲み込めなかった唾液で濡れた痕…… 「君が欲しい気持ちと、君に拒絶されるのが怖い気持ちが同居する、繊細な生き物だよ」 指の撫でた場所を、熱い舌が拭った。 「だから君を奪うんだ」 君を奪えば、拒絶されない。 唇が、熱く…… 強く 優しく 強引に 荒々しく 柔らかく 触れて 押しつけて 力強く、 気高く、俺を奪う。

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