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《断章》副総理だって主夫をする!⑰
しない、しない、しないッ
「挿入しないーッ!!」
プルプルプルプル~ッ
ありったけ首を振って、全力否定。
失念していた。
大事なことを。
………俺の夫は絶倫だ。
「おやおや、夫婦の営みを拒まれてしまったよ。新婚なのに倦怠期かな」
「ちがう!」
「盛る気になったね。股ぐらのムスコがギンギンかな」
「そうじゃなくって!」
「あぁ、そうだったね。君は種なしだから、雄の性器で生殖できない。
君の性器をムスコと呼んではいけないね」
「~~~」
言わないでくれ。
(俺だけじゃない)
Ωは全員、種なしなんだァァァーッ!!!
………………ぐすん。
「落ち込んではいけないよ」
ぽんぽん
大きな掌が頭を撫でてくれる。
「君は私さえも手玉に取る、性欲旺盛な絶倫淫乱Ωだからね」
「はあぁぁぁー??」
なに言い出すんだ、この人はァァーッ
「絶倫はハルオミさん!!」
「私達は絶倫夫婦だね♪」
~~~♠
嬉しくない。
………………子供、作ろうね。
(ハルオミさん……なんて?)
ふわり
舞い降りた声は、耳朶の裏に溶けて消えた。
「ハルオミさん」
「ん?」
「なにか言った?」
「なにか聞こえたかい?」
ぽんぽん
大きな掌が髪を撫でてくれる。
「疲れただろう。少し眠ろうか」
「でも……」
こんなコトになっちゃったけど、ハルオミさんはお寝坊の俺を起こしに来たんじゃ……
「俺、疲れてないから」
起きられるよ。
………あ、でも。
(ハルオミさんが疲れてるんだ)
早起きしてホットミルク作ってくれて。
ベッドでイチャイチャして、せせせっ、せぃこーまでして二人が一つに繋がって……朝から激しかったもんな。
ハルオミさん、お疲れだ。
若く見えるけど、俺より十歳年上なんだ。ゆっくり休ませてあげなきゃね!
「君……」
あれ?頭上から降ってくるハルオミさんの声が、いつもより低い。
「どうしたの?」
「いま、私を年寄り扱いしたね」
「なんの事だ?ハルオミさんは年上だから、年上扱いだぞ。俺より十歳も年上だから、ハルオミさんはゆっくり休まないとな」
十歳年上のハルオミさんを労らないと!
お気遣いができて偉いぞ、俺。
妻としての自覚ができている。……わッ!
「年上、年上……十歳も年上って~~」
ハルオミさん??
「君」
喉を引っ掻いた指先が、顎を持ち上げた。
「年寄り扱いされるほど、私は年を食っていないよ!」
……ハルオミさん、なにを怒ってるんだ?
「ちょっ、ちょっと!」
サファイアの双眼が落ちてくる。
瞼を閉じる間もなく、俺ッ
キスされたー!!
獰猛な、肉食獣の唇が貪る。舌を絡めて蹂躙する。歯列をなぞり、舌を押さえて上顎を這い、舌をつついて舌を絡め取る。
唾液が溢れて飲み込めない。
酸素が欲しい。
熱い。
頭の芯がぼぅーっとなる。
「……君に、こんなキスはできないだろう」
数ミリ離れた唇が囀ずった言葉の意味さえ分からぬまま、俺はこくりと頷いていた。
ようやく吸い込んだ酸素すら、熱を冷ましてくれない。
心臓がバクバク、鼓動を打ち鳴らしている。
サファイアから目が離せない。
深海の色の中に、俺がいる。
こんなキスをされるのは……
……こんなキスができるのは。
「年の功?……違うね」
こんなキスをする理由は……
「君を愛しているからだよ」
頬に一筋、涙が伝った。
俺の頬を滑り落ちていく光……
「怖かったね……」
ちがう。
ちがうのに声が出ない。
「君を怖がらせてしまったね」
ごめんね、って……
抱きしめてくれた腕の中。
……ありがとう、って。
あなたの顔に頬を擦り寄せて、抱きしめ返した。
ぎゅっ
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