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《断章》副総理だって主夫をする!22
バチャンッ
湯舟が波打った。
俺の唇、ハルオミさんに塞がれている。
背中の腕と、後頭部の手がガシッと俺を掴んで離さない。
「おとなしくしてると食べちゃうよ?」
かぷり
火照った耳たぶを甘噛みしてくる。
「……暴れないね?」
呼吸ごと止めるキスをした獰猛な唇が、耳元で囁く。濡れた髪を一筋、耳に引っ掻けた悪戯な指がクニクニ耳たぶを引っ張った。
「暴れたって離してあげる気はないけれど」
そうだろう?……だって、
「君は私のものになったんだよ」
チャポンっ……て、湯が跳ねて。
湯船の中で手を握られた。
「君に一生外れない指輪をはめたのは、私だよ」
ハルオミさ……
最後まで伝えられなかった。
唇を塞がれる。
声も呼吸も、思考さえも。全部持ってかれる。舌を絡め取られて、俺を全部奪われる。
俺が、ハルオミさんのものになる。
「……んっ」
まだだ。
まだ続く。
果てない蹂躙が終わらない。
ハルオミさんが俺を求めて、余さず残さず、俺がハルオミさんに奪われていく。
後頭部を抱きかかえられて、何度も角度を変えて、絡む舌の……口づけの熱が蒼い瞳よりも熱いメタンハイドレートの透明な火を、瞼に焼きつける。
「君の幸せが、私であればいいのにね……」
蒼い瞳の火が揺れる。
「……私の幸せは、君なのだから」
口づけで言葉の意味も分からぬのに、あなたの熱が俺を包むんだ。
優しく、優しく……
左手を握ってくれる。
指輪をした薬指が、あなたに包まれている。
やくそく………
俺、幸せだよ。
あなたに出逢えて幸せ。
あなたを好きになって幸せ。
あなたと結婚できて幸せ。
あなたに愛されて幸せ。
あなたを愛する事ができて…幸せ。
きっとこの先、これからもずっと幸せだ。
10年後も20年後も、ずっとずっと。
……うぅん。今日よりも幸福が膨らんで、もっともっと幸せになってるよ。
(俺達ふたり)
「10年後、私達はふたりかな?」
(えっ……)
ハルオミさん?
「なんでもないよ」
お湯の中でクルリと体を反転させられて、太股の上に座らされた。
ハルオミさんの手が、お腹さすってる……
急に、どうしたんだろう?
(でも)
とても、あたたかい。
すごく、優しい。
左手が俺の左手を握ってる。
指輪と指輪が重なって、結ばれている。
ハルオミさんの体温が心地良い。
背中の温もり、俺も抱きしめたいのにな。……ちょっとだけ欲張ってしまう。
「なにを考えているのかな。耳が赤いよ」
チュっ
湿った音と一緒に、チャプンって湯が囀 った。柔らかくて生暖かい感触が、耳の裏を這って。
キスされた!
「また赤くなったね。湯あたりしたのかな」
分かってるくせに。
ハルオミさんは意地悪だ。
ザブーンッ
「わわわッ!」
飛沫が跳ねる。湯舟がゆあーんと波打って、体が宙に浮いた。
「上がろうか。本当に湯あたりさせてしまっては大変だ」
ハルオミさんの顔が近い。
俺っ、抱っこされてるーっ!!
「あのっ」
お互い素っ裸で抱っこ★
肌と肌が重なって、熱と熱が重なり合って。打ちつける心臓の音が鼓膜を穿つ。
ハルオミさんにも、バクバク鳴る鼓動が聞こえていたらどうしよう。
「心配かい?」
吐息が頬を撫でて、ドキンッ
左胸から心臓が飛び出しそうになる。
「100まで数えるのは、明日もできるよ」
「えっ」
「私達は夫婦で家族なんだからね」
「そそそ~」
それはー!
「お風呂、ハルオミさんと一緒?」
「当然じゃないか」
「毎日、ハルオミさんとお風呂?」
「夫婦は一心同体だよ」
そんなのーッ
(俺の心臓がもたない!)
「明日はちゃんと100まで数えようね」
「ちちち」
ちん……
(~~~)
……毎日、男性器の俗称を100回唱和する……
(あの卑猥な数え方もしなくちゃいけないのかーッ!!)
嫌ァァ~~♠
「おっと」
バタバタバタッ
「危ないよ」
逞しい両腕に抵抗を封じられる。
そうだ。
俺は夫の腕の中、ハルオミさんに抱っこされてるんだった。
「下ろしてくれっ」
俺だって雄だ。
「重たいだろ」
「全然」
藍に染まるサファイアの水面 が微笑む。
「寧 ろ、君はもう少し体重を増やした方がいいね」
………あと一人分くらい。
(最後、なんて言ったの?)
「ハルオミさん?」
よく聞こえなかった。唇が動いたみたいだったけど。
「……大好きだよ」
ナツキ………
「君に愛を囁いたんだよ」
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