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《断章》副総理だって主夫をする!36〈fin〉
「来た!」
点滅する携帯ランプが着信メッセージを知らせる。
「ハルオミさんっ」
良かった。緊急の事案は無事解決したらしい。
……そう時間はかからないだろう。ってハルオミさんは出ていったけど。予想以上に早かった。
もしかして、ハルオミさんが張り切って陣頭指揮とったからだったりして?
だったら嬉しいな、って想像に顔がほころんでしまう。
だって、俺達はこれから……
「嘘だろうー!!」
受信メッセージの続きの文面に驚愕する。
「……間に合わない」
ハルオミさんの方が近いんだ。
(待ち合わせの場所に)
このままじゃ遅刻!大遅刻だ!
ハルオミさんを待たせたせいで離婚……なんて事になったら大変だッ
『デートしよう。事案が片付いたら、外で待ち合わせだ』
……って。
仕事に行く前、約束したんだ。
『結婚前の恋人同士に戻ったみたいだね』
……なんて。
くすぐったいよ、ハルオミさん。
昨日まで恋人同士だった俺達だから。そんなふうに言われたら、夫婦になったんだって自覚してしまう。
「わーっ!」
いけないっ
ハルオミさんからのメッセージだ。
……待ってるよ。って★
もう待ち合わせの場所に着いている。
出かけないと!
あっ、寝癖ついてないかな?よし、大丈夫。
おっと。戸締まり、戸締まり。
トゥルルルー
ポケットの中で着信ベルが鳴った。メッセージじゃなくって……
(通話だっ)
『やぁ、すまないね。メッセージは見てくれたかな。急に待ち合わせの場所を変えてしまったから、分かるかなと思って』
「ハルオミさん、ごめん。いま家を出るとこ」
『慌てなくていいよ。君を待つのが楽しみでもあるんだ。それに電話したのは口実で、君の声を聞きたかったんだよ』
思わず声を立てて、笑ってしまった。
「俺も!」
俺もね、
「ハルオミさんの声が聞きたかった」
少し前まで一緒にいて、今から会えるのに不思議だね。
『不思議じゃないよ。夫婦は以心伝心だよ』
「あっ」
伝わってきた。
ハルオミさんの言いたい事。
これって……
「夫婦になって初めての」
『初デートだ』
以心伝心。夫婦は一心同体だから通じ合う。
『正解だよ。ご褒美だ』
………チュっ
キスされたー!!
受話口の吐息が、耳にチュっ……て!!
『耳まで真っ赤だね』
「ぎゃっ」
『私は思考を読み、思考を操るシュヴァルツ カイザーだよ。君の思考は……チュっ♪』
キャー、またキスされた!!
『私のものだ』
……絶対かなわない。
かなう気がしない。
俺の夫は、日本国副総理大臣にして《黒の支配者 》シキ ハルオミ。
とんでもない人を夫にしてしまった……
『私を手玉に取るのが君だ』
「それじゃ俺が」
悪女じゃないな。悪男?
「悪Ωだ」
『悪Ωだよ』
うっ、夫に肯定されてしまった。
『私は君にメロメロのゾッコンだ』
死語を使うのもハルオミさん♪
そんなところも、だーい好き♥
「俺もハルオミさんに……メロメロのゾッコンだよ」
う~っ、言っちゃった。
『知ってるよ』
ドキンッ
耳元で囁く声だけで、心臓が脈打つ。やられっぱなしじゃ悔しいな。夫婦は対等。
だったら、これでどうだ。
「チュっ♥」
『………』
「………」
『………』
「ハ、ハルオミさ~んっ!?」
どうしようーっ、ドン引きされてしまったーっ
『………………君を犯したい』
……………………へ?
『今ここで、君を犯していいかい?』
「ダメーッ!!」
ハルオミさんのいる場所は外!
副総理が公衆猥褻罪で捕まってしまうーッ!
『君への愛が止まらない』
「止めろッ!それは性欲だ!」
『性欲も愛だ。君より十歳も年上だけど、お盛んだよ!
股ぐらのムスコが、君を恋しがってるよー!』
『やめんかーッ!!』
天誅!プシュー……が、できないッ
これ、電話だ~
……つか、ハルオミさん。まだ根に持ってる……十歳年上♠……
『私を犯罪者にしたくなければ、早くおいで』
柔らかな低音が耳朶をくすぐった。
『君の好きなものを教えて欲しい、と言ったのを覚えているかい?』
「うん」
『君に……』
………それは突然の申し出で
『婚礼の服を選んで欲しい。新郎の衣装を、君に』
つまり、それは……
『君の好きな服で、私を君の好きなものに加えて欲しいんだ。頼めるかい?』
「もう俺、ハルオミさんが大好きなのに」
『じゃあもっと、好きになって欲しい。私の事を。君にできるかな?』
試すような口調が、受話口でクスリと笑った。
『君は私に、なにを着せてくれるのだろう?タキシードだろうか。フロックコート?紋付き袴もいいね』
迷ってしまう。ハルオミさん、なに着ても似合うから。
『嬉しい事を言ってくれる』
心の声、だだ漏れてた?それとも思考を読まれた?
『ナツキ、愛している』
Ich liebe dich , Du bist unersetzlich .
《DESTINY》
Fluchen .Du bist mein Schicksal .
「俺も」
ハルオミさん。
「あなたを愛しています」
これからも、ずっと、ずぅーっと。
一緒に。
『いようね』
「はい」
俺達は夫婦になって、家族になった。
『ナツキ』
「はい」
『試着室で全裸になって待ってるよー!!』
「脱ぐなーッ!!」
早く行かないと。
『副総理、公衆猥褻罪で逮捕』の号外が、世にばらまかれてしまう★
『……安心するんだよ。私の裸は君だけのものだ。誰にも見せやしない』
でも早く、君に会いたいな。
「俺も」
待ってて、ハルオミさん。
……おっと、忘れ物。
「行ってきます、ハルオミさん♪」
抱き枕に口づけをする。
行ってきますのキスだよ。
俺達は新婚さんだからね!
等身大ハルオミさん♪
ほっぺにチュっ♥
《fin》
……『君、浮気したね』
「ハルオミさん?なんのこと?」
『もう一人の私にキスしたろう』
シュヴァルツ カイザーに思考を読まれたー!!★(゜ロ゜ノ)ノ
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