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■節分SP■君に捧げる愛の歌④
アヒルちゃん、助けてー!!
ハルオミさんの魔の手……否。
(魔の棒から俺を守ってくれー!!)
ハルオミさんの馬鹿力め。
外れない。ガッシリ握られた両手が微動だにしない。
「抵抗されると燃えるよ」
「なに言ってんだ」
ガシガシ
おかしい。ハルオミさんは文民だ。俺は前線で戦っていたんだぞ。……指揮官としてだが。
こないだまで現役だった俺が、文民如きに遅れをとるなんて。
(世界は間違っている)
俺にナイショで筋トレしてるんじゃない!ハルオミさん。
「……なんの話だい」
「とぼけるな」
鍛えなければ握力も腕力も強くならない。腹筋だって割れてるし。
絶対、体脂肪率低いぞ。たるみのない体は一朝一夕でできるものではない。
日々の鍛練の賜物だ。
「筋トレしてるよね?俺に隠れて」
夫婦で隠し事はいけないんだぞ。
「なるほどね。君の独占欲可愛いね。けれど隠し事はしていないよ。トレーニングには毎日付き合ってくれてるだろう」
俺が?
「そうだよ」
「でも」
ジム行ってないぞ。
「私は副総理だ。ジムに行かないよ」
多忙だもんね。ハルオミさんは。
だけど朝のジョギングに付き合った覚えもないし。
そもそもジョギングなんかしていない。
「それを『筋トレ』というならば、私と君……」
なぜだッ
口許に携えた柔らかな微笑みに、なぜどうして!ゾゾゾー……って。
(悪寒が走ったんだーっ?)
「二人で昨夜も……」
「言うな!」
とっさに口をついて出た俺の判断は、間違っていない。
「夫婦の夜の筋トレだよー!」
言うな!っつったろうがーッ
プシュウゥゥゥー………
できない。正義の鉄拳プシューが、ハルオミさんの馬鹿力で封じられてるーッ
助けてー!!
「アヒルちゃん!!」
「君は私に似てアヒルちゃん大好きだね。夫婦だから似るのかな」
なんでもええわっ
風呂場に行けばアヒルちゃんが気をそらしてくれる。きっと!
大量の可愛いアヒルちゃんを見れば、ハルオミさんの有り余る性欲を抑え込む事ができる。たぶん!
(ハルオミさんって、ほんと性欲強いよな)
思春期の高校生だ。
アラサーなのに……
「なにか言ったかい?」
「な、なにもっ」
ハルオミさんに歳の話は厳禁だ。思考を読むから、頭の中で思い浮かべるのも厳禁だ。
(今は集中だ)
信じるんだ、俺の策を。
我が頭脳を信じろ。
俺の策略が勝利を導けなかった事があったか?
どんな強敵も、俺の頭脳が明示する最強の戦略で打ち倒してきたじゃないか。
幾ら敵が強かろうと、数字の上ではこちらが有利。数にものを言わせて押さえ込み包囲すれば、如何に思考を読まれようが、シュヴァルツ カイザーであろうとも敵ではない。
上手く使うんだ。
アヒルちゃんを!
「面白いね。種切れを狙う作戦かい?」
「………………え?」
それを言うなら、弾切れだろう。ハルオミさん。
「種切れにはならないよ」
「弾切れね?」
「種切れだよ」
言い間違えてるのに訂正しない。おかしなハルオミさんだな。
「私は種切れにはならないよ。一体一体、アヒルちゃんに当てていこうじゃないか」
「それって!!」
「種はァ~外!アヒルちゃん射的、面白いね。君のアイデアは最高だよ!」
「ちがーうッ!!」
可愛いアヒルちゃんを、ハルオミさんの穢れた種まきの犠牲にするなーッ
「一体、また一体、アヒルちゃんが倒れる中を逃げ惑うがいいよ」
蒼い瞳のあなたが手の甲に口づけを落とした。
「顔も唇も、指の先一本に至るまで私の汚れた白いミルク浸けにしてあげよう。
ドロドロになって、私のものになるんだよ」
美しい所作に見惚れた俺は油断した。
最後のチャンスだったのに。この口づけは、ハルオミさんの魔の手から逃げるラストチャンス……
ガシイッ
馬鹿力が!
「ムギャアァァ~」
手がほどけない。
「さぁ、行こうか!私達の戦場へ!」
キャアァ~、アヒルちゃーん!!
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