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■節分SP■君に捧げる愛の歌26

きっと…… 俺は背伸びしてきた。 今も…… 背伸びしている。 陽光の下で揺れる薄紅の花が眩しくて、手を伸ばしていた。 あれは太陽に手を伸ばしていたんだろうか? それとも桜の花? ひらり、ひゅらり、ひゅら、ひぉん 舞い降りる淡い紅の花びらを浴びていた。 届かない。 手を伸ばしても、もっと伸ばしても。指先は触れない。 桜の樹が大きくて。 ………うぅん。俺が小さかったんだ。 あの頃の俺は幼くて。 背伸びしても。先まで薄紅の花を付けた枝まで届かなかった。 青い空がひらひら揺れている。 淡い花色の向こうで、蒼穹が陽光に瞬いていた。 (俺は近づけたかな?) あの日 幼い頃、思い描いた未来の俺になれたかな? 俺は、幼い俺を裏切らなかった? 幼い俺は、未来の俺を信じられる? 伸ばした手は、儚く蒼の空を切ったけど。 あの日伸ばした手は、求めていたのかも知れない。 花が舞い散った。 黒い影が俺を抱いていた。 蒼い眼差しに包まれて、体が持ち上がった。 柔らかく…… 儚い花の色に、指が触れた。 (俺を抱きかかえている温もりは……) だれ? 花と陽が重なって。 光と葉の緑が揺れている。 陽光を梳いて、桜の花が踊ってる。 ……『私はね、今のこの桜も好きだよ』 ふわりと舞った風と共に、声は……… 『葉桜だと、嘆く人もいるけれど。生きているじゃないか。脈々と。移り変わる命を感じる事ができる、この桜が好きなんだ』 花から葉へ…… 新緑が芽吹く樹の脈動が聞こえてくる。 『変化は必ずしも良い結果を導くとは限らない。けれども、変化のない停滞は死と同じだ』 間違った変化もあるかも知れない。 だけど…… 間違ってしまったら直せばいいよ。 間違いを直すのも、止まらず変化する事の一部だからね。 薄紅の花と、新緑の葉の混在する枝を見つめ、枝が腕を伸ばすその向こうの蒼穹をサファイアの玲瓏が映している。 背中の温もりに鼓動が高鳴った。 『予感がするよ』 なんの根拠も確証もない。 政治家を目指す身としてはいけないね。 けれど……… 『いつか、恋に落ちる予感だよ』 「だれと?」 『さぁ……誰だろうね』 柔らかな声と一緒に、蒼穹高くに桜が舞った。 ……ペチ、ペチペチ (……ん、ん?) ペチペチ、ペチ (雨) 桜を惑わす花散らしの雨か。 ペチペチペチ (ん、ん~) だけど冷たくないぞ。頬を打つ感触はするのに、雨が冷たくない。 「雨だって?」 「わわっ、ハルオミさん!」 声に導かれて、重い瞼を開けた視界に飛び込んできたのは…… ギャアァァァァ~~♠ すっぽんぽんのあなたのいきり勃つアレ!! 「気がついて良かったよ。私が分かるかい?君は興奮しすぎて、気を失ってしまったんだよ」 ペチペチ! 「ムギャア♠」 間違ってるよ、あなたは! 政治家として、日本国内閣副総理大臣として! 雄の象徴で頬っぺた叩くなァァァーッ!! 「まともな起こし方しろー!」

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