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★〔ゴムの日記念〕★美味しい時間〔後編⑦〕
好きな気持ちが伝わらない
あなたを抱きしめたい。
強く、強く、抱きしめたい。
抱きしめて、キスしたい。
あなたを掻き乱したい。
心をこんなにも掻き乱すあなたを掻き乱したい。
あなたはいつも余裕だから
こんなにも乱される俺に微笑んで、包んでくれる。
逞しい腕で
胸で
熱く包まれる。
余裕のあなたは、背中から俺を抱きしめて……汗ばんだ髪の隙間から、耳朶を啄んで囁くんだ。
「余裕なんてないよ」
えっ………
「余裕のある男はこんなにも必死にならない」
長い指が弧を描く。
「あふンっ」
そこっ
「私と君の繋がっている場所だ」
「ハフん、ハルオ……」
息を飲む。
柔らかい指の腹が、開いてあなたを飲み込んでいる場所をなぞる。
「分かるかい?」
耳の裏を吐息がくすぐる。
「濡れてるね。君をこんなにも濡らしたのは私だよ」
「ヒンぅ~」
ハルオミさんが腰を動かす。淫靡な水音が鼓膜を犯す。
「君の音だ。私を求めていっぱいマン汁垂らしたね」
チロリと舌が濡れた息をすくう。
触れるだけのキス……
「君を愛したくて、愛されたくて必死なんだよ」
唇が再び触れる。
「そうでなければ、君をこんなにも抱いて辱しめて、満たされる訳がない」
君が飲み込めないくらいの愛を注いだ。
君から、それよりもっと多くの愛を貰った。
「君の悦ぶ顔も、おねだりする顔も、蕩けた顔も、恥ずかしい顔も……
目の前の君を全部、私のものにしたい。一つ残らず、私だけのものにしたい。私以外のものにしたくない」
そんなふうに思う私に……
「余裕なんてないよ」
俺は想われている。
俺が想う以上に、たくさん
あなたにたくさん想われている。
「君の匂いがする」
俺の腹についた白濁をすくって、つん……
指が鼻先をつついた。
ミルクと混ざり合った汗と一緒に……ハルオミさんの匂いがする……
「きっと溢れてしまうね。この楔を抜いたら」
まだ硬い。
俺の中のハルオミさん。
もうイッたのに。
「抜か…ないで」
全部ほしい。
あなたが
あなたの温もりも、愛情も、胸をキュンっと締めつける切なささえも。
あなたのくれる全部がほしい。
離したくない。
「一つになったこの楔を抜いたら、君への愛が溢れそうで怖いよ」
あなたの眼差しが優しい。
切なくて優しい。
「αは獣なんだ。愛をΩに注ぎたくて、逃げる君を犯す。愛を注いで、抱き殺してしまうかもしれない」
君を想うから………
あなたに想われているから。
逃げないよ。
「ハルオミさん」
「ありがとう。君の声が聞きたかった」
君の中に
君の奥に私がいるままで。
「君の名を呼ぶ声が理性を繋いでくれている」
掌がお腹をさする。
俺の吐き出したミルクでぐちゃぐちゃに濡れた陰毛ごと、お臍の下を大きな手が撫でる。
「俺はどんなハルオミさんもっ」
「行かないよ」
吐息が触れている。
耳が熱い。
頬っぺたも。
「君を置いてどこかへ行けるほど、傲慢じゃないんだ」
「あなたはずるい」
「どうしてだい」
「あなたは……」
思考を読むから。
どんなあなたも……
獣のハルオミさんだって、好き。
どんなハルオミさんも愛している。愛せるから。
(どこにも行かないで)
……って思った俺の思考を先回りするなんて。
「君の夫は、シュヴァルツカイザーだよ」
君の愛を独占するためには、どんな手段も厭わない男だ。
「私の居場所はここだ。余裕のない男だからね。君のそばにいたい。もっと君の近くにいたい。……君に触れていたい。一秒でも長く抱き合いたい」
繋がっていたいよ。
熱い吐息に触れられて、体温が上昇する。
あなたを求めた唇……
塞がれている。啄まれて、吸いとられて、舌と舌を絡めて、絡み合わせて、ハルオミさん……
わずかな合間に、息を吸い込むのが精一杯。伝えたい言葉さえ、あなたに伝えられない。 ハルオミさん!
「いいんだよ……君の気持ちは全部もらってる」
口づけが熱い。
溶けてしまいそう。
「夫婦は一心同体だから。分かるんだ」
キスで通じてしまうなんて。
あなたはずるい。
「今頃気づいたのかい。私はずるい夫さ」
狡猾に君を奪う。
「君だけに見せる我が儘だよ」
キスが俺を奪うんだ。
あなたに何度も何度も奪われて……
「まだだよ……まだ足りない」
そんな事を言うあなたは、やっぱり我が儘だね。
……不意に包まれた頬。
逆方向に顔を向けさせられて、唇を塞がれる。
「俺も我が儘だから、お前が欲しいよ」
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