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【お正月♪】初詣はあまねく愛に包まれて⑧
天狗は意地悪で、へそ曲がり。
でも、ほんとは……とってもやさしい天狗さん。
………………ムニャムニャムニャ。
「ナツキ、寝言言ってる」
「可愛いですね、統帥」
「なんて言ったのかな?」
「副総理の悪口です」
「おいおい、即答かい」
ハンドルを握る運転席で、ミラー越しに後部座席を流し見た。
アキヒト君が膝掛けを眠るナツキの肩に掛けてあげている。
夫婦……というよりも、兄を気遣う弟のようで微笑ましい。
ふと口許にこぼれかけた笑みを悟られまいと引き締めた。
(私は何を考えているんだい?)
ユキトもアキヒト君もナツキの夫という点では家族だ。
しかし夫同士、ライバルでもある。
「ナツキに膝掛けを掛け終わったら、手は膝の上だよ。アキヒト君」
牽制しておかなければね。
「あぁ、バレていましたか。シュヴァルツ カイザーの異名を持つだけの事はありますね」
「シュヴァルツ カイザーでなくても分かるさ。君の考えてそうな事だ。」
「ねぇ、何の話?」
ナツキの隣。
アキヒト君の反対側で声を上げた実の弟は年齢こそアキヒト君より上だが、アキヒト君より幼いらしい。
「膝掛けの下で、ナツキと手を繋ぐのは反則だって話さ」
「ズルいぞ!愛人!俺だって!」
ぎゅうっ
「愛人ッ、何やってる。統帥が起きてしまうだろ!あっ、膝掛けが落ちたじゃないか」
「お前が手を離さないからだ。愛人!」
「おいおい、君達。愛人同士で喧嘩はやめなさい」
「兄上!」
「副総理!」
「どうした?何か不味い事でも言ったかな」
もちろん、わざとだ。
正夫の特権というやつだ。私は第一夫なのだから。
「………兄上」
「………副総理」
ミラー越しに後部シートで二人が私を睨んでいる。
「「おとなげない!」ですよ!」
怒られてしまった。
「今のうち、せいぜい正夫の座で胡座をかいていてください。子供の数で、あなたに負けませんから」
「βの君が、αの私にかい?」
「統帥は俺の子供を一番たくさん産むんです。俺は『運命のβ』ですから」
「ナツキの『運命のα』は俺だよ!」
「私がナツキの『運命のα』だ!」
私とした事が……
二人に乗せられてしまったね。
君は幸せだよ。
ナツキ………
君はこんなにも愛されている。
私にも、彼らにも。
『運命のα』と『運命のβ』に。
これからも、この先も。
ずっと、ずっと。
余裕ある第一夫は、たまには脱ぎ捨ててもいいのかもと思うけれど。
君の前では、余裕を見せつけていたい。
(君の理想の夫でいたいんだ)
君に愛されたいからね。
結局のところ、我が儘だよ。
私の我が儘ごと愛してくれて、ありがとう。
これからも愛してほしい。
君をめいいっぱい愛するよ。
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