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アンハッピーバースデイもありかもしれない♥!?【中編】
シュヴァルツ カイザーは卑怯だ。
思考を読み、思考を操るあなたに、俺の思考は手玉に取られている。
「なにもなしでのキスは、君が心配するだろう」
俺の気持ちは、あなたに知り尽くされている。
言葉にしなくても?
夫婦だから?
「そうだよ」
「うん」
「私達は夫婦だよ」
「家族だね」
「そうだね」
他愛もない会話だけど、これが家族なんだ。
「君は?」
「えっ」
あなたの海の色の中に、意地悪な光が見えたのは……気のせいだろうか。
「君は私とキスしたかったかい?」
そんなの!!
「言わなくてもッ」
「言わないと分からないよ」
「でも夫婦は!」
「夫婦だから、伝え合わないといけないね」
「あなたはシュヴァルツ カイザー!」
思考を読み、思考を操る《黒の支配者》だ。
「シュヴァルツ カイザーは万能ではない」
嘘だ!
俺を振り回すくせに。
「……そうか。キス、したくないんだね」
そんなこと言ってない!
「ふもふもふもも~」
なのになぜ?
あなたの人差し指は、マスクの上から俺の口を止めるの?
(俺だって)
ハルオミさんといっぱいキス
「…………したい」
不意に指の枷が外れた。
「夫婦は一心同体だ。思うところは一緒だね」
「えっえっ」
「私も君といっぱい『したい』」
あのっ、あのっ?
勝手に話が進んでるんだけど?
動揺する俺を尻目に、ハルオミさんは涼やかな眼差しを落とす。
「もちろんセックスだよ」
セっ、セっ、セっッッッ★★★
プシュウゥゥゥ~~~
「おっと」
こつん。
おでことおでこが、こっつんこ。
「熱が上がったね」
プシュ、プシュ。
ハルオミさんの顔が間近に!
プシュシュ~
「湯気を出してはいけないよ。茹でだこさんは禁止だ」
「そんな事言ったって」
ハルオミさんの顔、すごく近い。不意に睫毛の隙間から覗いた藍の瞳に吸い込まれて、意識が奪われそうだ。
「私達は夫婦なのに。夫の顔がまだ、見慣れないかい?」
こくり。
頷いた俺の頬を包む両手が優しい。
ほっぺたの熱も体の熱も、みんな上昇する。
「困ったね。初々しい妻だ」
眼差しはどこまでも優しい。
「それで君」
藍の瞳が波間の色に揺れた。
「答えをまだ聞かせてもらっていないね」
答え?……
「そうだよ。君は私とセックスしたいかい?」
「ハルオミさんッ」
「セックスとは交尾の事だよ。つぶらな君のおすまんこに、しとどに濡れた私の股ぐらの果実を慎ましやかに挿し込む行為だよ」
「嘘だ!ハルオミさんは激しい」
「やっぱり君は分かってるね!」
ぎゃふん。
シュヴァルツ カイザーに、してやられた。
俺の思考は掌の上で転がされている。
「毎日ヤっているから、分かって当然だね」
「ハルオミさん~~」
「私達は永遠の新婚さんだよ」
プシュー
「おっと」
再びおでことおでこが、こっつんこ。
「茹でだこさんはいけないね。夫の言いつけが守れない妻はお仕置きだ」
「わっ」
俺が、ハルオミさんの香りに包まれた。
(体が浮いている)
少し前までベッドで寝ていた体が、ハルオミの両腕の中だ。
俗に言う、お姫様抱っこ……というやつで……
「あっ」
光が走った。
空を駆けて、空に吸い込まれた。
「見えたかい」
あなたの瞳の中に、光の緒が映った。
「今夜は琴座流星群の極大期だそうだ」
星が空を駆ける。
「君の風邪が早く治りますように」
流れ星に願いを込める言霊は、やっぱり俺なんだね。
ハルオミさん。
あなたの深海の瞳に吸い込まれていく流星が綺麗。
「ハルオミさんの誕生日、来年は一緒に楽しくお祝いできますように……」
ハルオミさん、ごめんなさい。
風邪引いちゃって……
「その願いなら、もう叶っているよ」
光を帯びた瞳が降ってきた。
「こうして君と一緒に過ごしているじゃないか。私は幸せだ」
マスクの上、あなたの唇が重なる。
あなたを抱きしめ返す。強く、強く……
俺もです。ハルオミさん。
幸せが溢れてくる。
たくさん、たくさん。
あなたが幸せを俺にくれる。
「不正解だよ」
「えっ」
「私達が幸せを作っているんだ」
思考を読んだシュヴァルツ カイザーはずるい。
じゃあ、俺の願いは……
(あなたと同じでもう叶っているよ)
だったら、この星に請い願う想いは、ただ一つ。
「来年も一緒に、あなたの誕生日を過ごせますように」
星が流れた。
「そうだね」
俺とハルオミさんは、同じ気持ち。
だって夫婦だもんね。
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