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【11/23 いい兄さんの日SP】おとなの特権はいかがかな?
「ほら。届いたかい」
ひらひら廻る陽だまりの中で、君の目が輝いていた。
「はるおみさん……」
君が手を伸ばす。
「もう少しだね」
君を抱きかかえたまま背伸びした。
あの頃の私も幼かったから。
(君よりは年上だからね)
もちろん……
「届いたよ!はるおみさん!」
指先に触れた桜の花びらが微笑んだ気がした。
君は触れたかったんだ。
川縁に咲く桜の花に
私は君の願いを叶えたかった。
君よりは年上だから、君を守ったり、君に君の知らない事を教えたり、時には君を叱ったり、その後は君を笑顔にさせたり……
そうして、君と共に時間を過ごして。
君の時間を満たしたかったんだ。
無意識にそう望んでいた。
私の時間を君と一緒に満たしたかった。
いま振り返ると、そう思う。
「あっ……」
腕の中の君が、声を上げた。
桜の花びらが不意の風にすくわれて、君の鼻先を掠める。
目を丸くして驚いた君を見て私が笑って、つられて君も笑ったね。
笑った私達を桜の花びらが包んだ。
優しい桃色の風が高く、高く、蒼穹に舞い上がった。
君は、私が好きかい?
私は君が好きだよ
けれど、あの頃の好きと今の好きは違うんだ……
君は、どうかな?
「わわわッ!」
「あぁ、すまないね」
「ちょっ、ハルオミさん!お皿落としちゃうからっ」
「そうならないように、君をぎゅっとするよ」
「……それ逆効果」
ぽそりと呟いた君の細やかな甘い不満は、聞こえなかった事にする。
「ほら。手が止まってるよ。その皿は……そこ。右の一番上だ」
「わわっ!だからぁ~」
君の高鳴る心音を背中で受け止める。
こんな事で焦る君は可愛い。夜はもっとすごい事をしているのに。
「あぅ」
「どうした?」
「ハルオミさん!悪戯しないで!」
「人聞きが悪いな。これは愛の営みだよ」
チュッ
無防備な首筋に唇を落とす。
君を抱きかかえてキスできるのだから、悪くない。
「毎日でもしたいね。大掃除」
「……俺、心臓がもたない」
……君の愚痴は甘すぎるよ。
時々歳の差を気にする事もあるけれど。君より年上で、君より背が高いのは役得だ。
(私は君より年上だから)
君よりも経験がある。
経験を生かして君を幸せにする自信があるよ。
チュッ♥
時々こうやって君を困らせてあげられるのも、大人の特権だ。
但し良き兄にはなれなかったけどね。
だって、君の夫になってしまったから。
「………………ハルオミさん、好き」
「おや?」
年下の特権を使う君はズルい。
「もう一度、聞きたいな」
「もう言わない」
「じゃあ、私から言おうか」
ich liebe dich meine Frau ,Natsuki .
《愛しているよ、ナツキ》
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